裁判所・部 神戸地方裁判所・第四刑事部
事件番号 平成17年(わ)第1332号 (期日間整理手続適用事件)
事件名 強盗殺人、窃盗、住居侵入
被告名 山本峰照
担当判事 笹野明義(裁判長)佐茂剛(右陪席)姥迫浩司(左陪席)
その他 書記官:三好邦彦
日付 2006.3.20 内容 判決

 3月20日午前10時から、強盗殺人、窃盗、住居侵入の罪に問われている山本峰照被告の判決が神戸地裁(笹野明義裁判長)であった。
 傍聴券配布はなかったが、かなりの遺族の親戚縁者などが集結したので、狭い201号法廷はすぐ満席になってしまい、立ち見で傍聴しようとした人は職員に追い出されていた。
 2分間のカメラ撮影と諸注意のあと、山本被告が入廷。上下黒のスエットで髪が伸びた丸刈り、眉毛が黒くて太いのが印象的で目が少し細い。びっこを引いた足と顔に散らばるクレーター状の出来物がその年齢を裏打ちした。少し太めの体格だが、頬はこけている。

 開廷すると裁判長が「それでは理由から先に説明します」と述べて、主文の言い渡しを後回しにした。ここで数人の報道陣が席を立つ。

−理由−
○罪となるべき事実
 被告人は橋本と共謀のうえ
(1) 神戸市の公衆浴場で、貴重品ロッカーの施錠を外し、現金等11点を窃取した。
(2) 洲本市のc方でガラスを割って施錠を外し、現金や定期預金の口座、金庫などを窃取した。
(3) 金品窃取の目的で西宮市のd方に侵入し、婦人用ジャンパー等10点を窃取した。
(4) ギャンブルなどで被害者のa夫妻を含む親戚に借金をしていたが、さらに賭け麻雀に没頭したため、「以前断られていたが、もしかしたら金を貸してくれるかもしれない。貸してくれなかった場合は殺害して奪おう」と決意し、自宅にあった出刃包丁を持って被害者宅に赴いた。居間であらためて借金を申し込んだが、明確な口調で断られた。そこで当初の計画通り、出刃包丁でaの胸を1回、bの胸を1回突き刺し、bを助けようとしたaをさらに突き刺してbにもとどめをさした。その結果aを失血死、bを心タンポナーデでそれぞれ死亡させたうえ、現金合計5万3000円や腕時計、ネックレスなどを奪った。
 以上の被告人の行為は強盗殺人刑法240条後段、住居侵入刑法130条、窃盗刑法235条にそれぞれ該当する。
 弁護人は、被告人は長期間に渡って睡眠薬を服用しており慢性中毒の状態であり、心身耗弱の状態だったと主張している。
 被告人は前刑出所後、複数の医療機関で処方されていた。被告人に対して、Y1内科などはユーロピン、デストロミン、マイスリンなどを投与していたことが認められる。同時に睡眠薬の処方もされ、副作用として顔にむくみができた。一日13錠を服用するよう説明されており、その副作用が意識レベルに影響を及ぼしたと弁護人は主張している。
 だが、強盗殺人のときの服用量だが、被告人は捜査段階で1日8〜9錠と供述しており、公判廷でも記憶に従って同じ供述をしている。専門家はそれらが精神状態に影響することは一般的にないと話している。また犯行を詳細に供述していることから、記憶の欠落は認められない。
 犯行動機も了解可能なものである。犯行の計画性や入念な罪証隠滅をしていることに照らすと、被告人の記憶はその行動に関するところは正確で、情動不能だったり、弁識能力を有していないとは認めらない。弁護人の主張は採用できない。

○量刑の理由
 本件は共犯者とともに行った公衆浴場の窃盗1件、空き巣2件、強盗殺人2件の事案である。
 その経緯であるが、被告人は昭和52年に内妻のY2と知り合い、内縁関係になって、被告人の自宅で暮らすようになった。
 西日本各地でパチンコ従業員として稼動し、転々としていた。Y2と合わせて月々7万円の生活保護を貰っていたが、生活保護費を賭け麻雀に浪費したため金銭に窮し、信用金庫に居合わせた人を襲って、強盗未遂の罪で神戸地裁で懲役3年に処せられ、加古川刑務所に服役した。
 平成16年に仮出所したあとも、働くことなく共犯者に誘われるまま窃盗に及び、分け前60万円を手にした。それも再び賭け麻雀に没頭し、被害者夫婦を含む親戚に借金をした。ところがさらに賭け麻雀に浪費し、「もはやこれらの者から借金できない。被害者夫婦からまとまった金を借りて、生活費や賭け麻雀に使おう」としてY2とともに被害者夫婦のもとを訪ねたが、断られた。次に自ら行っても断られてしまった。
 被告人は何とか金を手に入れようと、知人の前でナイフで手を切り5万円を借りて、そのうち3万を賭け麻雀、2万を生活費に充てた。また母親から10万円を借りたが、賭け麻雀に使った。
 量刑において考慮した事情であるが、その犯行態様は鋭利な出刃包丁で無防備に座っていたaの左胸をいきなり突き刺し、苦痛に苛まれながらaが差し出した2万円を奪い、驚いて被告人に抱きついたbも突き刺し、「b、b」と這って歩くaを刺して、aの体を上体にしてさらに突き刺し、うめき声を上げるbも突き刺してとどめをさしたあと、平然とホームコタツにあった現金や腕時計を奪ったもので、執拗かつ冷酷非情なものだ。自己の欲望のためには他人の生命を一顧だにしないもので、人間としての共感の片鱗も見出せない。
 2名の尊い生命を奪った責任は極めて重大である。
 被害者は複数回に渡り被告人に金を貸し、その後も親戚としてそれなりの対応をしていた。
 被害者は子どもこそいなかったが、いずれも靴職人として稼動して円満な関係を築き、夫婦水入らずの生活をしていた。その幸福を被告人により突然奪われたもので、その苦痛や恐怖は察するに余りある。
 被害者は最も安全であるはずの自宅の居室で無残に殺害され、周辺住民に与えた恐怖も想像に難くなく、社会的影響も大きい。
 犯行動機は、親戚や知人から借金を重ねていた被告人が、それでも賭け麻雀をしたいということからなされたもので酌量の余地は全く認められない。
 また返り血を浴びないように、黒色のシャツを着ていったり、出刃包丁をあらかじめ準備したり、果物を手土産として持っていったり、借金を断られると軍手をはめて凶行に及んだり、周到に準備された計画的な犯行である。
 被告人には「借金をすることができるかも」という期待があったというが、それは客観的に不合理で、本件犯行は必然的なものだった。
 被告人は犯行をY2に伝えて、アリバイ作りをしたり、果物や手提げかばんを海に捨てたり、軍手を焼き捨てて、奪った時計を土に埋めたりしている。これらは犯行が発覚しないよう汲々とする卑劣な行為で、そこには後悔や反省の念は伺うことができず、情状も極めて悪い。
 他の窃盗も安易に敢行されており、利欲的な犯行に酌量の余地はない。現金だけでも被害は240万円にのぼり、そのうち60万円を被告人は手にしている。
 被告人はこれまで傷害2犯、強盗未遂1犯の前科があり、傷害の1件は当時の妻と喧嘩して刃物で切りつけたもので、前科の強盗のとともにいずれも自己中心的で反社会的である。
 信用金庫強盗は本件と同様、賭け麻雀が原因で、一攫千金を夢見てなされたものであり、この事件で服役して出所後1年半余りで「警察に捕まらずに確実が金が手に入る方法はないか」と本件犯行に及んだものであり、犯罪性向は極めて深刻だ。
 突然被害者夫婦を失った遺族の絶望感や喪失感に加えて、とりわけ第1発見者でもあり姉を慕っていた妹の精神的苦痛は大きく、同女を含めて遺族は峻烈な処罰感情を有して被告人に極刑を求めている。
 他方被告人は本件強盗殺人事件で当初は口をつぐんでいたが、本件犯行を自白するに至り、当公判廷でも遺族に謝罪し、「いかなる刑にも服する」と話すなど被告人にも酌むべき情状が認められる。
 しかし被告人に有利な情状を最大限考慮しても、犯行の動機、犯行態様、結果の重大性、社会的影響の大きさ、犯罪性向の深化などに照らすと被告人の罪責は誠に重大であって、刑の均衡や一般予防の見地からも極刑をもって臨む以外にない。

−主文−
 被告人を死刑に処する。神戸地方検察庁にて押収してある出刃包丁を没収する。

裁判長「主文は以上です。これ以上付け加えることはありません。控訴する場合、2週間以内に大阪高裁宛ての控訴申立書をこの裁判所に提出して下さい。主文の重みを考えて、十分検討するようにしてください。終わります」

 ここで閉廷したが、遺族の関係者から被告人に「己のしたこと分かってんか!」「はよ死ねボケ!」と野次が飛ぶ。被告人は「何言うとんや!」と言って、憤激したまま刑務官に連行されていった。

 閉廷後、年配の弁護人は記者の質問に
「法廷で言った通りです」
「鑑定が認められなかったのは、誠に不満。弁護人としては弁護人の立場で控訴します」
「審理がわずか3回で終わったのは、鑑定を却下したためだ」
などと答えていた。
 だいたい30分程度で判決の言い渡しは終わった。

事件概要  山本被告は2004年7月22日、兵庫県神戸市東灘区の従兄弟の男性と妻を強盗目的で殺害したとされる。
 山本被告は、2005年6月に、別の窃盗で逮捕され、その公判中の10月12日に強盗殺人で逮捕された。
報告者 insectさん


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