裁判所・部 神戸地方裁判所・第四刑事部
事件番号 平成16年(わ)第39号
事件名 強盗致死、窃盗
被告名 B、C
担当判事 笹野明義(裁判長)
日付 2005.9.2 内容 論告求刑・最終弁論

 9月2日午前10時から、強盗致死、窃盗の罪に問われたB、C両被告に対する論告求刑・弁論が神戸地裁(笹野明義裁判長)であった。
 共に丸刈りでB被告はサングラスを付けた亀井静香に似た太り気味の男だった。C被告は顔をしかめるような表情をしていた。

検察官の論告
 事実関係は取調べ済みの関係各証拠により証明済みです。
 平成16年1月26日の強盗致死事件について、Bは被害者宅に入っていないので暴行事実を知らなければ、強盗致死の結果も知らない状態だったと弁護人は主張している。一方、Cは被害者宅を出たとき、被害者が死亡するとは考えられず、Cが出て行った後、共犯者であるAによる新たな暴行が被害者を死に至らしめたのであって、共謀関係を離脱していると弁護人は主張している。つまりCは被害者の死の結果は知らなかったというのである。
 だが、Mが死に至る経緯やその犯行態様、犯行動機を勘案すれば両被告が被害者の死亡を予見できたのは明らかであって弁護人の主張は受け入れられない。予見可能性は強盗致死の成立要件ではない。被告人らは共同正犯であって因果関係があれば足りる。共同体としてなされた結果が、ガムテープでグルグル巻きにして暗証番号を聞きだすという行為であり、共謀関係にあったのは明白だ。猪名川事件では運転手役がBで、Cがガムテープで被害者を緊縛したまま出ていき、Aがキャッシュカードの暗証番号を聞き出すため暴行を加えたというのが事件の構図で、3人の間に共謀が成立する。被害者は自由に首を動かすことができずに、体力が消耗して窒息死したのであり、緊縛して放置することと事件後被害者が死亡したことの因果関係は明らかだ。つまり予見可能性の有無に関わらず、強盗致死は成立する。
 次に情状の有無であるが、猪名川事件以前の強盗事件においても下見を行ったうえで、壮年男性が押し入り、ガムテープで口や四肢を塞いで金銭を強奪する行為に情状は見出せない。緊縛状態から放置することは、被害者の狼狽やショックから死亡させる可能性も内包している。あらかじめ狙いをつけた家に侵入して、Aが凶器を持参せず、腕力のみで制圧しようとした時点で、被害者の抵抗が相当激しいものになるだろうということは容易に予見できる。なお以前の強盗事件ではサバイバルナイフや催涙スプレーを携帯しているので、今回はAとCの腕力のみが頼りでそれ以前の事件に比して、相当激しい暴力が容易に予想される。被害者の抵抗も必死で、「Aがフライパンでめちゃくちゃしよるわ」との会話も交わされた。暗証番号がなかなか聞きだせないのでAも「おっさん、暗証番号言いませんわ。しぶといですわ。なんとかやりますわ」と言っており、Aもキャッシュカードの暗証番号を聞き出そうと躍起になっていたことが分かる。Cが現場から退出したあとAの暴力は相当激しいものになっていった。Aはイライラしがちで、それが動作や態度にすぐに出る性格で、当時堕胎手術を受けた交際女性から手術代を要求されており、早くやろうと気がはやっていた。Bも、Mの死体が発見されたというニュースが出たとき「うわーAやりよった」と言い、Aに「お前が殺したんか」と聞いたがそれ以上は詮索しなかった。この言動は死亡予見性があったことに他ならない。BはMと面識があったため、なかには入れなかったが、Aに殺人の前科があるということを知っていた。Bの供述に信用性を認めることはできない。Cにしても共犯関係を離脱していると主張するが、共謀関係を解消するというのは共犯者に威圧の意思を示して犯行を継続することがない状態を作り出すことが重要である。実際はCはガムテープで両手足を緊縛したあと、自分の仕事が終わったから出てきたのであり分け前も要求している。Aに暗証番号の聞き出しを任せたに過ぎず、同情の余地は皆無で、当然死の結果についても責任を負うべきだ。
 事件は強盗集団が狙いをつけた民家を襲撃した悪質な連続強盗で、一連の強盗は窃盗事件の流れで起きた。京都事務所事件・上加茂事件・H方事件・杉尾郵便局事件・奈半利駅事件・住吉区事件など件数も多大で、動機に酌量の余地はない。
 個別に見ていくと、Bはダンプの運転手を辞めて警備会社に転職したが給与が減り、知人から金銭を借り入れして切羽詰っていた。Cは経営していたC工業の業績が不振になり借金を抱えた。羽振りが良かったバブル期の従前の生活から抜け出せないでいた。
 犯行は短絡的で身勝手で、金銭のためには人命を奪うことも厭わない性格で、利欲的な動機に酌量の余地はない。手っ取り早くお金を手に入れようと組織的に安易に繰り返された常習的かつ職業的な犯行で、Bは12件、Cは10件もの犯罪行為に関わっている。それ以外にも京都で5件、猪名川周辺で6件もの犯行を自供している。3人の間では「仕事がある」と言ったら強盗のことだと通じるほどだった。狙いをつけた民家の情報を収集して、念入りに下見をして実行に移している。計画が一旦失敗しても練り直して何とか実行していた。また女性や高齢者を率先して狙っており、社会的弱者を食い物にする犯行は悪質極まる。特に住吉区の事件では、Aが「亡くなったご主人にお世話になった」と家に入ってBらを招き入れた。そしてモデルガンを突きつけ、「従わないと殺す」などと申し向けており、独居女性をあざ笑うかのような犯行だ。侵入しただけの事件でも家人に発見されたら強盗事件に発展した可能性も高く、被害者も「声をかけていたら、亡くなったMさんのようになっていたかもしれないので背筋が寒くなる思いだ」と話している。
 猪名川事件ではAが「本当に静かにせんか」と言い顔面を踏みつけ馬乗りになって、Cがガムテープで縛り上げた。Aはフライパンの縁部分で殴打し、緊縛した被害者をうつ伏せ状態のまま引きずる行為は、摩擦の熱や物に体が当たるのも気にしない残虐な態様で、生身の人間として扱っていない。結果も重大で遺体で発見されたMはまるでミイラのようだったと言わしめるほどだった。Mはインキ会社の製造部で22年間働き、足に障害が残ったものの真面目に貯蓄していて友人とスナックで歓談をするのを唯一の楽しみにしていたのである。そのように静かに過ごしていた早朝に、被告人らが上がり込んできてグルグル巻きにされた上、全身の渡り擦過傷や打撲傷を受け、小さな骨は骨折までしていた。必死の抵抗も空しく呼吸もできずに真綿で締められるように死に向かっていったのであり不憫だ。
 また別の事件では老夫婦の家に公務員を装って侵入するなどの暴挙を敢行しており、被害者や利用者に多大な不安や恐れを与えた。被害額はBが関与したのは2268万円、Cが関与したのは1707万円にも上っており、それ以外にも防犯設備や修理費用がかかっていることも考慮すべきだ。しかしながらこの重大な被害に対して、慰謝の措置は講じられておらずその見込みもない。
 猪名川事件についても凶器を持参しない時点で、起こるべくして起きたと言うべきであり、致死の結果を具体的に知らなかったことを過大に評価することは相当でない。当然各被害者の処罰感情も一律に厳しく、
「犯人には怒りと憎しみがいっぱいで許すことができない。厳罰を望む」
「このようなことが横行すると私たちは安心して働くことができません」
「目を涙で潤ませながらビクビクしながら犯行の様子を話していた。絶対に殺されると思った」
「こんな恐ろしい目に遭ったのは人生初めてだ。こんなことで人生終えるのかと無念に思った」
「歩くことが不自由な人に包丁を突きつけるなんて血も涙もない連中だ。一生刑務所に入れて欲しい」
という。
 死亡したMの遺族は極刑を求めている。
「グルグル巻きにして殺すなんてどうしてこのような残虐なことができるのか。残虐な殺人鬼の弁解など聞きたくもありません。障害者でもあったMを殺す必要などあるわけがありません。Mには弁解をする機会すら与えられませんでした。犯人全員を許すことができず望むのは死刑のみです。兄の敵を私が取ってやりたいぐらいです。拷問を受けたような死に方をした兄が味わった苦痛や悔しさを味あわせてやりたいです。兄はどんな気持ちで玄関で倒れていたのでしょうか。実際自分が犯行と同じように試してみると、何も動かせない状態でした。Bは自分勝手な男で、CはAを止めることができたはずです。3人とも死刑にして下さい」
と峻烈な処罰感情を吐露している。
 また犯行は治安に対する国民の不安を増大させ、グルグル巻きにされた家人の遺体が発見された本件犯行は広く新聞等で報道され、単身で暮らす老人に多大な不安を与えたことは軽視できない。欲望に任せた押し込み強盗には厳正な科刑を講ずる必要がある。
 まずBには有利な情状は見出せない。トラックの運転手から警備会社に転職したことで給料が減ったのに、飲み代やパチンコ代で浪費し、子供にも与えなかった。目先のことを何も考えず、金銭にルーズでその場を取り繕うことに汲々とする性格で、行きあたりばったりだったことを反省するわけでもなく手っ取り早く金を手に入れたいとの思いからなされた犯行で酌量の余地はない。Bは「先妻から次女を引き取りたかった」ことを動機としてあげているが信用性は到底認められない。身勝手な自己の動機を正当化しているに過ぎない。Bは各強盗事件でAと同様主犯的な役割を果たしている。Cを説得し、共犯に引き入れたのもBであり、猪名川事件の強盗対象に恩人でもある被害者を選定している。猪名川事件では運転手役としてCらを同行させて、第三者が訪ねてくるなど緊急事態に速やかに対応できるようAと連絡を取り合っていた。犯行後、現金を下ろしたAを速やかに車内から離脱させた。猪名川事件後もAと同様に従前通り窃盗を繰り返し、強盗も計画していたのであり、そこには被害者に対する憐憫の情や反省悔悟の情は認められない。普通は知人の死に接して罪の意識に苛まれるはずなのに、その死に関わったAと犯行を重ねているもので戦慄すら覚える。金銭的誘惑に勝てずに犯行を繰りかえているのは規範意識が欠如している証明であり、逮捕されなければAとともにさらに犯行を重ねていた可能性が高い。またAの前科や性格を知らなかったと供述を後退させたり、ひたすら自分にとって致死は予想していなかったとの弁解に固執し、臆面もなくそのような供述をしており反省の情はない。再犯の恐れも高く、親しくしていた友人のMの死も犯行を思い止まらせる契機にはならなかった。また覚せい剤の常習性も認められる。Bは兄が服役後監督してくれると主張するが、他の兄弟は拒否している。兄はBの覚せい剤使用も黙認しており実効性があるか疑わしい。
 Cはバブル期の金銭感覚が忘れられずに、付き合っていた女性に800万の金を無心するなどしていたが、あっという間にまとまった金が手に入る窃盗行為をしていくうちに罪悪感がなくなっていった。紹介するなどして3者の関係を作ったのもCである。容易に解けないよう緊縛しており結果に対する責任を負うのは当然だ。Cは反省の情を示しているが、あくまでAやBと比較した場合であって深刻でないとは言えない。分け前欲しさに犯行に加担したのは規範意識が鈍磨している。情報もAに提供していて金銭のために親族の家まで売ったり、中村一など粗暴な暴力団員と付き合っていた。Bは業務上過失致傷、Cは業務上過失致傷・道路交通法違反の前科があるのみだが刑責は重い。Cも自己の罪を真っ当することなく更生はあり得ない。よって求刑であるがBに無期懲役、Cに懲役15年を選択するのが相当である。

B弁護人の最終弁論
 BとAらとの間に共謀は成立しない。被害者の死亡の予見可能性はBにはなく、過去の裁判例でも強盗傷害に留まることは明らかである。Bが知っていたのは、Aの性格が自己中心的で金に執着し、10年間服役していた経験があるというだけで、Aが強盗殺人の前科を有していることは知らなかった。Aは猪名川事件の犯行後、ビールを飲みながらワールドカップを観戦しており致死に至るような結果だとは想定できなかった。Aは被害者からすでに暗証番号を聞きだしていたのに、なぜ被害者を死に至らしめるような異常な暴行を加えたのか理解できない。Aに変わった様子はなく、瀕死の重傷を負わせているなど到底想像がつかない。
 Bは結婚後、4人の子供を儲けたが離婚して高槻市内のマンションで暮らしていた。トラックの運転手を25年間していたが排ガス規制が原因で、トラックを廃棄して警備会社で稼動していた。Bは暴力団員でなく勤労意欲もあり、安定した社会人生活を送れる素地がある。だが警備会社に転職してから収入が減って、知人から借金をして200万円もの負債を抱えてしまった。
 京都の風俗事務所の事件や猪名川事件は自己中心的だと言われても仕方のない面があり、厳しい非難に当たるかもしれないが、それはAからの誘いを断われなかったのが一因である。強盗の際に被害者を負傷させるつもりはなく、それ以前に同種の前科もない。Bは現在48歳で刑期を終えたあとは高齢になっていること、父親と長兄がその後の面倒を見てくれることなど被告人に有利な事情を十分考慮された上で寛大な判決を賜りたい

C弁護人の最終弁論
 猪名川事件以外の事実関係は争わないが、被害者の死はAの新たな暴行が原因であり、この事案が強盗傷害に留まるのは大阪地裁の判決を見ても明らかである。
 京都の風俗事務所事件ではAは常に冷静沈着で、猪名川事件の時の様子ではなかった。
 H方事件では犯行を勧められたが、Cは拒否し続けた。CはAが強盗事件の被害者に熾烈な暴行を加えるところを目撃していない。悲鳴を上げたMに、Aが暴行するのを初めて目撃したCは動揺した。CはAが強盗殺人・強盗致傷で懲役12年に処せられていた前科を有していたことは知らなかった。それに暴行は暗証番号を聞きだすまでのことで、Cが出たときMはそれほど苦しそうな様子ではなかった。Mの死因はその後Aが憤慨して加えた暴行によるもので、Cが巻いたガムテープは緩く、一巻き目は外れていた。
 犯行までの共謀でもCは乗り気ではなかった。Cは自らの罪を告白し、遺族に手紙を送付している。このような反省悔悟の情を評価して寛大な判決を賜りたい

 ここで最終弁論は終わり、被告人2名を前に立たせて、裁判長が「最後に言いたいことはありますか」と言った。

B「私のような者のためにこのような場を設けてくれた判事さんや検事さんや弁護士さんに感謝します。Mさんに心からお詫び申し上げたいです。Mさんに二度と罪を犯さないように誓って罪を償っていきたいです」
C「被害者の方に心からお詫び申し上げます。これから先も被害者の冥福を祈って長い期間になりますが服役していきたいです」

 判決は11月4日に言い渡される。

報告者 insectさん


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