裁判所・部 神戸地方裁判所姫路支部・合議係
事件番号 平成17年(わ)第359号等
事件名 殺人・覚せい剤取締法違反・死体損壊・死体遺棄
被告名 高柳和也
担当判事 伊東武是(裁判長)藤原美弥子(右陪席)加藤紀子(左陪席)
日付 2005.10.19 内容 証人尋問

 10月19日午後13時30分から、殺人・覚せい剤取締法違反・死体損壊・死体遺棄の罪に問われた高柳和也被告の第5回公判(証人尋問)が神戸地裁姫路支部(伊東武是裁判長)であった。
 支部の裁判所だったので一番大きいと言う法廷も狭く、傍聴席の半分強を事件関係者席が占めていた。

 高柳被告は刑務官4人に連れられ、入廷。パジャマのような灰色の服を着ていた。背は平均より低めで中肉で、天狗のような顔をしていたが、退廷するまでずっと下を向いていた。
 遺族がどちらかの女性の大きな遺影を掲げていた。

 開廷すると証人の法医学者が柵のなかに入り、宣誓をして検察側の主尋問が始まる。

−検察側の主尋問−
検察官「証人のお名前や職業、ご経歴などを仰ってください」
証人「Uです。神戸大学の法医学研究室に所属しており、平成11年の9月からは神戸大学医学部教授をしています」
検察官「この事件は高柳和也がハンマーを用いて殺人を行ったというものですが、証人はハンマーを凶器とした殺人事件を何件これまで見てこられましたか」
証人「玄翁を使ったのが3件、先輩と共同で金槌やハンマーを使ったのが6件、他にも亡くなってない被害者の分を含めるとたくさんあります」
検察官「これから被告人がXさんとYさんを殴った証拠物を証人に示します」
 ここで殺害に使われたハンマーを検察官が取り出す。見た感じでも、かなり大きなハンマーである。
検察官「このハンマーを見て、証人が見た感じの特徴みたいなのはありますか」
証人「人を殺傷するのに十分な重量や形状で、形能も今まで取り扱った殺人事件のそれに似ています」
検察官「これは116号証の捜査報告書、つまり被告人調書なのですが、それによるとこのハンマーは頭部が4,7cm、幅が10,3cm、重量が1,39kgあります。ハンマーの殺傷能力というのはどこで決まるのですか」
証人「頭部の両端部分が重要です」
検察官「このハンマーで1回だけ殴ると人を死亡させることができますか」
証人「可能です」
検察官「頭をハンマーで殴ると、どういうメカニズムで人は死に至るのですか」
証人「皮膚が裂け、陥没骨折を起こし、脳の機能が失われて死亡ということになります」
検察官「1回だけで死に至るものなのですか」
証人「必要な力を加えたら可能です」
検察官「即死とも考えられるのですか」
証人「即死の定義が問題になってくるが、気絶させて救命不可能な状態にさせることはできます」
検察官「この即死の定義が問題になるとは?」
証人「脳が死んだからといって、心臓が止まるわけではないということです」
検察官「脳死から心停止で死ぬまで、どのくらいの時間を要するのですか」
証人「それは脳の傷つき方によって異なります」
検察官「XさんもYさんも前頭部、つまり左目の上部分を殴られて死亡していますが、ハンマーでその部位を殴って死亡させることは可能ですか」
証人「骨を傷つけるだけの力を加えれば可能です」
検察官「もし成人男性の力が加わったとしたら?」
証人「可能になります」
 ここで検察官が血液の飛散状況が記載されている高柳方の現場見取り図を証人に示した。
検察官「このOというのはO型の血液のXさん、AというのはA型の血液のYさんの、1階の血痕付着状況です。結局Xさんは2階の廊下を上がったところ、Yさんは和室で殺害されているのですが、この血液の飛散を証人から見て、1回のハンマーで殺害することは考えられますか」
証人「個人的には、1回殴っただけでは難しいと思います」
検察官「とすると複数回の殴打で殺害したと見るのが自然なのですか」
証人「はい」
検察官「血液の飛散なのですが、1回殴打するのと、複数回殴打するのではどう異なるのですか」
証人「1回の殴打では血管が破れて血が溜まります。何度も殴打すると、その溜まった血が飛散することになります」
検察官「血液がかなりの飛び方をしていることから、複数回の殴打と考えたのですか」
証人「そう考えます」
検察官「殴られた前頭部にはどういう血管があるのですか」
証人「毛細血管があります」
検察官「静脈の血の飛び散り方には、どのような特徴があるのですか」
証人「泉が湧き出すような形で噴き出します」
検察官「一回の殴打で血が溜まり、さらに殴打することによって血が飛び散るということですか」
証人「はい、そうです」

 ここで検察官が133号証(捜査差し押さえ報告書)の鑑定書添付の被害者の骨片を証人に示す。
 この骨片は2階の廊下の壁沿いの床下部分から発見されたという。

検察官「この骨片は頭蓋冠と鑑定されていますが、頭蓋冠というのはどういうものですか」
証人「髪の毛が覆っている、ドーム状の骨の部分を指します」
検察官「この頭蓋冠はDNA鑑定の結果、Xさんのものと一致したのですが、この頭蓋冠が骨片になってしまうメカニズムを説明してください」
証人「頭蓋が細かく粉砕されて、皮膚の破れ目から飛び出した形になります」
検察官「ハンマーで叩いて、頭蓋冠が床下に落ちることは可能ですか?」
証人「はい、可能です」
検察官「1回の殴打で頭蓋冠は飛び出しますか」
証人「可能性としては複数回の殴打のほうが、頭蓋冠が飛び出す可能性は高い」
検察官「つまり複数回の殴打があったと捉えて、矛盾はないわけですね」
証人「はい」
検察官「ハンマーを握っていた手の状態についてお聞きしたいのですが、1回殴ったときと複数回殴ったときで、手の状況の違いはあるのですか」
証人「筋肉を緊張させている時間の長さが違うと思います」
検察官「ハンマーを離すときの手の状態はどうですか」
証人「長く握っていたときのほうが、筋緊張が長くなっているので、離しにくくなっていることが考えられます」
検察官「握っている指を反対の手で広げて離すということは考えられますか」
証人「はい」
検察官「まとめると一回の殴打でも殺害することは可能で、血の飛散状況から複数回殴打されたと考えるほうが自然なのですね」
証人「はい」

 検察側の主尋問が終わる。

−弁護側の反対尋問−
弁護人「凶器のハンマーの殺傷能力、つまり頭部の重さや形状なら、1回殴っても死に至るということですか」
証人「はい、1回で可能です」
弁護人「それは鼻の上の、おでこの部分でも同じなのですか」
証人「力が十分かかっていれば可能です」
弁護人「甲108号証の現場見取り図を示しますが、血痕が部屋の広範囲に飛び散っているから、1回殴っただけでは難しいと言われましたが、それは血痕の付着状況からの判断ですか」
証人「はい」
弁護人「どのような事件が犯行態様で行われていたかということを前提にしていますか」
証人「いいえ、検察はそこまで聞いてはいません」
弁護人「つまり犯行が行われた際の位置関係は前提としていないと」
証人「はい」
弁護人「本人がハンマーで頭を殴ると、ハンマーにも血痕が付着して水滴のように落ちたということは考えられますか」
証人「はい」
弁護人「殴打したハンマーはすぐ抜けるのですか」
証人「ハンマーが陥没した頭蓋に入り込んでしまうと、引き抜くのに苦労することはあり得ます」
弁護人「ハンマーで殴ったときの血しぶきというのはどうやって起こるのですか」
証人「皮膚が破れ、血管が切れることによって起こります」
弁護人「その血しぶきはどの程度飛ぶのですか」
証人「確かなことは言えません」
弁護人「本人に返り血が飛び散るほどの血しぶきはあり得るのですか」
証人「どのような状況で傷害行為が行われたかによりますが、あり得ます」
弁護人「特殊な叩き方なら、血しぶきは本人のほうに飛ばないのですか」
証人「一般的なことは答えられません」
弁護人「殴打してすぐハンマーを引き抜いたときと、時間をかけて引き抜いたときでは、血しぶきの違いはあるのですか」
証人「ゆっくり引き上げたほうが、出血の量が多い可能性が高い」
弁護人「TVの映画などで、血が噴き出るシーンがあるが、そういう状態ですか」
証人「TVの場合は演出が入っています、噴水のように出血するのは、動脈が切れないと起こりません」
弁護人「動脈はこめかみや側頭部にありますが、これらを殴った場合どうですか」
証人「ハンマーがこめかみ部分を直撃すると、可能性として血が飛び出ることはあります」

−検察側の最終尋問−
検察官「被害者の殺害時の体勢としては、被害者が仰向けに倒れているところを、そこからさらに殴ったということが自然な見方なのですか」
証人「はい。この血の飛び散り具合は一撃では到底難しい」
検察官「証人はこれまで司法解剖の経験はどのくらいあるのですか」
証人「年間で司法解剖は150件、これまで経験があるのは2000件近くになります」
検察官「これだけ血が飛び散っていることが意味していることは」
証人「叩いた瞬間の状態でも血が出ます、その血が出ている状態でさらに叩けば飛び散るということが言えます。つまり叩いた瞬間での範囲や勢いよりも、血が出ている状態のほうが幅広く飛び散ることになります」
検察官「頭蓋冠の骨片が落ちるということは、どういうことを意味しているのですか」
証人「ハンマーで殴打した打撃面が陥没して、骨片を生みます。その骨片が小さく割れて、骨膜も完全に破れ、皮膚が裂けた状態で飛び出すことです」

−弁護側の尋問−
弁護人「骨片が飛び出すというのは、相当強度の打撃が加えられたということでいいですか」
証人「そう考えていいです」
弁護人「血が出る時間というのはどのくらいですか」
証人「もう数秒もかからないうちに、バッと出ます」
弁護人「骨片は殴打して、ハンマーを抜く瞬間に飛び出すことはありますか」
証人「可能性はあります」
裁判長「証人はご協力ありがとうございました」

 このあと、今後の審理の協議が行われる。
 検察側は犯行の状況がはっきりしないので、被告人質問をしたいと主張した。弁護側は犯行態様を明らかにする冒頭陳述をあらためて行いたいと述べた。
 裁判長は「弁護側としては任意性を争うということでよろしいですか。それでは同意部分を採用しますので、検察官は読み上げてください」と言った。

 同意部分は以下のものが挙げられた。
・被告人の心情等が記載されていうもの
・交通事故の前科
・Xさんの遺体を投棄したのを自供したもの ・犯行隠蔽のメールを送っていた状況
・所持金等
・死体損壊の状況
・犯行前日の行動状況 ・ハンマーの形状の認識
・殺害時の状況
・海に死体を遺棄した状況

 今後は検察側は罪状に関する陳述の補充、弁護側は被告人調書の任意性の立証を検察側にしてもらうための前提として、争点を浮き上がらせて審理を進めていくという。
 次回の期日は11月16日。

 これでこの日の審理が終わり、被告人は傍聴席を一度も見ることなく退廷。
 遺影を掲げていた遺族の女性が「全然(こっちを)見ない」と言っていた。
 ちなみに高柳被告には交通事故で、主婦とその娘を死亡させて実刑判決に処された前科がある。
 遺された夫の言葉を引用する。「公判中も事故を起こした車で裁判所に乗り付けてくる無神経な男で、今に至るまで謝罪は全くありません」(新潮45より)

報告者 insectさん


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