裁判所・部 福岡高等裁判所・第一刑事部
事件番号 平成19年(う)第474号
事件名 恐喝、殺人、殺人(認定罪名:嘱託殺人)、詐欺、詐欺未遂
被告名
担当判事 陶山博生(裁判長)池田信彦(右陪席)早川幸男(左陪席)
日付 2008.9.25 内容 初公判

 2人の夫を保険金目的に相次いで殺害したとして殺人罪などに問われ、一審で無期懲役の判決を受けた中洲の元スナックママの控訴審初公判。
 締め切りまでに来ていた傍聴希望者は十数人だったので抽選には至らなかったが、開廷まじかになると大法廷の半分くらいの席が埋まった。
 報道カメラによる撮影後、淡い色の長袖カーディガンに黒いロングスカート姿の被告人が入廷。増えた白髪が目立っていたが、清楚な印象はそのままだった。
 被告側は、控訴趣意書で一審判決の事実誤認を指摘。被告人が証言席に座った。

−弁護人による被告人質問−
弁護人「貴女と一緒になってBさん(二審後に無罪確定)が刺したという事で、殺人という事については責任を認めるという事なんですね?」
被告人「私の責任です」
弁護人「死にたくなかったaさん(2番目の夫)を殺害した事は無いと、貴女は言いたいんでしょ?」
被告人「はい」
弁護人「bさん(3番目の夫)についてはどうですか?頼まれて殺したって言ってますよね?」
被告人「bさんに関しましては、私は殺しておりません」
弁護人「捜査段階の調書は、bさんを浴槽に押さえ付けて殺害したとなってますが何故ですか?」
被告人「取り調べ段階の時に、刑事さん達から家の中の出来事だから認めるように強要されて、そういう調書になりました」
弁護人「貴女は最初『殺してません』って言ってたんでしょ?家の中の事だから認めないんだったら何だって言うんですか?」
被告人「家の中には私と子供達しか居ません。家族だけしか居ないから、子供達も全部含めて共犯みたいにするぞと言われました」
弁護人「家の中の人全員がグルになって、bさんを殺したかのようにするぞって風に言われたって事ですか?」
被告人「はい」
弁護人「でも、長男さん達が本当の事を言えば」
被告人「取り調べが物凄く怖くて…刑事さんから、認めないんであれば大牟田一家の形でそれと同じようにするぞって言われました」
弁護人「大牟田事件みたいに、一家で人を殺したという事件にするぞと言われたんですね?」
被告人「はい」
弁護人「長男さん達が取り調べを受けたり身柄を拘束されたりする事を、貴女は恐れたという事ですか?」
被告人「私自身が取り調べのやり方とか、どんなに取り調べが怖いとか解っていましたので。刑事さんから私の長男とか長男の友達を逮捕するのは簡単なんだと言われました。ちょっとした事を叩けば逮捕は簡単なんだと。それで、取り調べられるような事があったらと心配しました」
弁護人「つまり、子供達が巻き込まれてしまう事が母親としては耐えられない気持ちだったと」
被告人「はい」
弁護人「bさんを殺したかについては、子供達に害が及ばないように譲ったという事なんですね?」
被告人「はい」
弁護人「でも、aさんとbさん二人殺した事になったら、大変な刑罰がくるとは思いませんか?」
被告人「a事件で9月に逮捕されたんですけど、9月の途中位から取り調べがどんどん激しくなってきて、刑事さんから『もうお前は極刑なんだからもう外に出られないぞ』と何度も言われて、頭の中が真っ白になって、極刑というのが怖くて堪らなくなりました。それでa事件の調書をどんどん勝手に作って行かれるんですけど、それは違いますって言っても、お前は極刑なんだからって」
弁護人「aさんの時がそうなら、二件目のbさんの時は、もっと怖いとは思いませんでしたか?」
被告人「a事件があるから、b事件が犯人であると言われても仕方ないと何度も言われました」
弁護人「貴女は一審の裁判で、裁判所で本当の事を知って欲しいとは思わなかったんですか?」
被告人「お話ししたいと思っていました。公判の前日に先生(一審の主任弁護人)に、bさんの件は黙秘した方がいいって言われました。何でですかって訊きましたら、こうでは無かったとか今から言い返す気持ちは分かるけども、言えば云うほど言い訳にしか聞こえないと思うから、黙秘を勧めますって言われました」
弁護人「でも真実はこうなんですと言うのが普通だと思うんですけど、何故あの時黙秘を勧められて黙秘を選んだんですか?」
被告人「弁護をしてもらわないといけないと思いましたので、先生の言う通りにしなくては仕方ないと自分で判断しました」
弁護人「その時頼れるのは弁護士の先生しか居なかったという事ですか?」
被告人「そうですね、はい」
弁護人「公判で貴女は検事さんから随分説得されてますよね。公判の検事と捜査の検事は違いますけど、どういう役割の人かって思いました?」
被告人「事件をきちんと…」
弁護人「法廷で検事さんに説得された時に、実はって言わなかったの?」
被告人「公判の前日に先生から、検事さんや裁判官の方達に対しては、黙秘しますと、もし黙秘しますって言えなかったら、答えたくありませんと全てに答えて下さいと言われました」
弁護人「今日話してる事が、貴女の話したい事なんですね?」
被告人「はい」
弁護人「b事件の何日か前に、bさんから『裕子(自殺を)手伝ってくれ』と言われて手伝ったというのは事実?」
被告人「はい」
弁護人「何故、手伝ったのですか?」
被告人「bさんから『ちょっとなんだ、ちょっと手伝ってくれればいいんだ』と何度も何度も私に言われるんです。あんまり言われるんで本当にちょっとなのかなと思って手伝ったのが」
弁護人「手伝った結果、物凄い力がいったんでしょ?」
被告人「私の力では敵いませんでした」
弁護人「柔道されてた方なんですってね。手伝ったのは何日か前で、事件に関しては全く何もしていないと?」
被告人「はい」
弁護人「もし現実にしてたら、物凄い力で押さえ付けなければいけないですよね。警察の人も貴女一人で出来たんだろうかって疑問に思われませんでしたか?」
被告人「最初の自白の時に、刑事さんから言われた通りに検事さんに話しました。そしたら検事さんが『そのくらいで人が死ぬワケ無いでしょ』『重大な事を自白したかと思って飛んで来たのに冗談じゃない』って言われました」
弁護人「(a殺害について)貴女は、刺したのは自分じゃないと言い続けてますよね。それは間違いないですか?」
被告人「はい」
弁護人「Bさんが刺したんですか?」
被告人「はい」
弁護人「Bさんは無罪になってますが、それを聞いてどう思いました?」
被告人「びっくりしましたけれども、一審の判決で『ほう助』ということで実行行為をしてないという事でしたので、一審の方がびっくりしました」
弁護人「Bさんの調書やBさんが作成した図面だとかが矛盾を感じると、私に言ってましたよね?」
被告人「私から頼まれて事務所に踏み入ったとなってましたが、事務所に一度も行った事のない人間が、急に頼まれて、それも死んでるかどうかも分からないって言ってるのに、そういう状態の時に初めて事務所に入って、間取りも分からないのに、何であんな間取りが書けるんだろうって思いました。2年間くらい住んでた私よりきちんと書かれてあったので、凄いな、頭の良い人なんだなとは思いましたけども」
弁護人「いずれにしても、Bさんは何の利益も無い訳で、結果的には巻き込んだという事については責任を感じてますか?」
被告人「本当に十分に私の責任だと思っております」
弁護人「Bさんにはお子さんも居らしたんですよね。新聞に無職と出てたでしょ?退職されたり、離婚だってされてるかもしれないし…人生を狂わされた事は間違いないですよね?」
被告人「はい」
弁護人「申し訳ないって気持ちはあるけど、実際に刺したのは自分じゃないと?」
被告人「はい」
弁護人「お腹と背中の2ケ所に傷があったという事だけど、自殺に見せかけなくっちゃいけなかったんでしょ?背中を自分で刺す人ってなかなか居ないですよね?」
被告人「どうやって刺したか私には分からないです」
弁護人「貴女ではないという事ですね?」
被告人「私はずっと、お腹から刺されたと思っていましたし、背中を刺されたというのはポリグラフ検査を受ける直前に聞いたんですが、本当にびっくりしました」
弁護人「実行行為をどちらがやったかは別にして、元の御主人を殺すという決定はどうしてしたんですか?」
被告人「aさんから電話があって、心配になって事務所に行きましたら首吊り用のヒモがあって、aさんが遺書を書いていました。それで色んな話をし始めて『裕子、殺してくれ。もうこれ以上失敗するのはイヤなんだ』って私に頼まれました」
弁護人「恐喝で逮捕された後、警察はaさんとbさんの死の方に捜査が進んでいた訳ですね。どうしても貴女が犯人だという態度でしたか?」
被告人「現金を実際に私は貰ってますから間違いないという事で、2回目の恐喝の起訴前には、恐喝の事ではなくbさんの件でかなり責められてました。それで私は『殺してません』とずっと言い切ってました」
弁護人「長女さんと長男さんは警察で事情を聴かれてますが、その事について不満とか言ってました?」
被告人「長女は、そんなつもりの意味で話してない事を色々調書に書かれてしまったと言ってました。長男は、いろんな事が分からないままの状態で、私が刺したという事を聴いた後の調書だったので、頭の中が混乱して私に対する怒りで、嫌な事ばかり言いすぎてしまったと。それが調書になったらちょっと違うと言ってました。…テレビで放送されてる様なあんな感じでは全然無いんだけどって」
弁護人「貴女がbさんを、凄く虐げて、打ったり、早く死んでしまえとか、イジメ抜いていたっていう調書になってますが、現実はどうでした?」
被告人「現実はそんな事は無かったです」
弁護人「調書に、イジメ抜いてるかの様に書かれていて、びっくりしたんでしょ?」
被告人「びっくりしました」
弁護人「bさんはリビングのソファーで寝かされてて、寝室に入れてもらえないとかね?」
被告人「検事さんから長男が言ってると聞いて、そんな風に見てたんだなって」
弁護人「現実は?」
被告人「私がお店に行ってる間の事は実際見てないので分かりませんが、ソファーで横になったりテレビを見たりしてたんだと思います」
弁護人「bさんは、家事全般が良く出来る人だったんですってね?」
被告人「私は話をするのも回転がとてもゆっくりなんです。bさんは私を見てたらイライラするらしくて…私が何かしようとしたら自分がした方が早いと…洗濯物を取り込んで、サッササッサとアイロンも掛けられるという人なんです。スピードが早くて、きちっとしてるんです」
弁護人「本当はそういう事なんだけど、コキ使われてたみたいな表現と現実は違うという事ですね?」
被告人「男の人が料理したり掃除したり洗濯物を干したり、子供達はびっくりしたと思うんです。特に長女はbさんに対して申し訳無いと感じていたから、そういう調書になったんだと思います」
弁護人「裁判所にお願いしたい事とか、貴女が言いたい事があったら言ってください」
被告人「aさんに関しましては、本当に申し訳なく思っております。私は刺してはいませんけれども、あの状況の中で私自身も、どうしていいのか分からなくなっておりました。その中で私自身も追い込まれていた気持も解ってください。bさんに関しましては、私は絶対に本当に殺しておりません。その事を解っていただきたいです。それから今、無期刑になっていますけれども、出来ましたら有期刑にしてください。一日でもいいですから母や子供達と一緒に過ごす時間を与えてください。自分の犯した罪は一生償います。本当に申し訳ありませんでした」
途中、涙で声を震わせながら、被告人自ら有期刑の判決を懇願した。

−検察官による被告人質問−
検察官「捜査の時点で自白した理由は、家族の者が逮捕されるかもしれないと脅された様な主張をしてるんだけど、その時に弁護士さんにはその事を話しましたか?」
被告人「してません」
検察官「どうしてですか?」
被告人「弁護士さんに対する信頼が私には無かったからです」
検察官「警察官がこんな事言って脅すんですよと、検事さんにしませんでしたか?」
被告人「殺人に関して話すことが余りにも多かったので、相談する事も出来ませんでした」
検察官「aさん自身が、貴女や家族の為に自殺して、生命保険金を下ろしたいという気持ちがあったのは間違い無いんだろうけど、貴女に自殺を手伝ってもらいたいとか、自分では死ねないので貴女に殺してもらいたいという意志はあったんでしょうかね?」
被告人「最後にaさんから『殺してくれ』と言われた時は本心だったと思います」
検察官「aさんも自殺を承諾してたのなら、Bさんという他人を入れる必要はどうしてあるんですかね?」
被告人「その時、自分自身でも追い込まれていましたし、どうしたらいいか分からなくて、そういう時に人につい頼ってしまう悪い性格が」
検察官「aさんに自殺の意思があるなら、Bさんに手伝って貰う必要は無いんじゃないんですか?」
被告人「自分で殺すのが怖かったからです」
検察官「事件の数日前に、貴女のマンションで貴女に包丁を渡されたけど、出来ないと断りましたと言うBさんの話は信用されて、貴女の話が信用されない点はどこにあると思いますか?」
被告人「保険金を全て私が手に入れた事。Bさんにはお金が全く入っていない事。それからBさんは殺しても何の利益も得てない事。そういう状況から見ても、と」
検察官「どちらが信用出来る話かと言うと、Bさんの供述の方がリアリティーがあると判断されたようにあると思うんだけど」
被告人「そうみたいですけれど、私からしたら考えられないです」
検察官「どう考えられない?」
被告人「当時の状況から見ても、マンションの真ん中にある部屋で、私から刺してくれって頼まれたっていうBさんの話は私から見たら考えられないです。もし刺したら子供達がすぐに起きてきます。Bさんの顔は家庭教師で習ってた人ですから、子供達もよく知っています。だから無理だと思います」
検察官「事件に関して、当然見てるであろう事を説明を求められても、説明が出来てないのはどうしてなんですか?」
被告人「ポリグラフ検査を受けて、自分の知ってる事を全て話しました。その中で、どうしても思い出せない部分がありましたけども、自分の罪の減刑のためにBさんの罪にしてるっていう風に新聞でも見ましたけれども、当時、自分の刑とか減刑とか考えられる余裕では無かったです。極刑だと言われてる中で、私も一生懸命に思い出さないといけないと思ってる中で、一生懸命に話してるつもりです。どうしても思い出せない事は、思い出せませんと答えています」

−再度、弁護人による被告人質問−
弁護人「弁護士さんから黙秘をしなさいと言われて、裁判では弁護士が頼りだからその通りにやっていたと?」
被告人「刑事さんからは、黙秘はしてはいけないと教えられてました。そういう中で、X1先生(一審の主任弁護人)が来られて、黙秘ですよって言い始められたら、X2先生(一審の弁護人)まで、a事件でも黙秘の練習をしてくださいって言われて、その時点で弁護士さんに対する信頼感が全く無くなりました。(黙秘はいけないと思ったから)弁護士を替えてくださいとX2先生には言ってたんです。でもX2先生からは、こんな大きな事件を引き受けてくれる弁護士は居ませんよって言われました」
弁護人「お二人とも良い先生なんだけど、貴女とは意思の疎通が十分に図られなかったと言う事なんですか?」
被告人「はい。黙秘して下さいと言われるけど、警察の方からは黙秘はダメだぞと言われるから、私も黙秘は出来ないと思ったので」
弁護人「でも法廷の時は勧められるままに、その通りにしてしまったという訳ですか?」
被告人「はい」
弁護人「後悔してますか?」
被告人「今は、後悔しています」

 裁判官からの質問はなく、裁判長が結審を宣言して、判決日を指定して閉廷した。

事件概要  A被告は保険金目的で以下の犯罪を犯したとされる。
1:1994年10月22日、福岡県志免町の自宅で共犯と共に当時の夫を刺殺。。
2:2000年11月12日、福岡市の自宅で当時の夫を水死させた。
 他に恐喝4件の余罪がある。
報告者 福太郎さん


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