裁判所・部 福岡高等裁判所・第三刑事部
事件番号 平成18年(う)第788号
事件名 強盗強姦未遂、強盗殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、強盗強姦
被告名 鈴木泰徳
担当判事 正木勝彦(裁判長)松下潔(右陪席)平島正道(左陪席)
日付 2008.2.7 内容 判決

 福岡県内で起きた女性3人連続殺人事件の控訴審判決公判が福岡高裁501号法廷であった。
 一審判決が覆る事は考え難く、判決が予想されるものであった事から傍聴希望者が少なく抽選には至らなかった。遺族も前回の半分程の人数で、左側前二列に席が用意されていた。
 午後1時半過ぎ、開廷前のビデオ撮影後、被告人は三人の刑務官に連れられ入廷し軽く頭を下げた。
 被告人は、坊主頭に紺色のジャージ姿、やや太めでがっちり体型。終始伏し目がちだった。

裁判長「それでは前に立ってください」
 被告人は、証言台の前に立つ。
裁判長「鈴木泰徳ですね、座ってください」
 証言席に腰かけた被告人に判決が言い渡された。

−主文−
 本件控訴を棄却する。

−理由−
○責任能力について
 被告人は、本件犯行当時、極度のストレス状態において妄想や記憶障害、意識障害が存在し、各犯行は妄想性人格障害か妄想性障害かの影響下で行われたもので、本件は心神喪失もしくは心神耗弱による犯行である旨、主張します。
 しかし、本件各犯行の経緯、動機、態様、犯行後の被告人の行動等については、概ね原判決が犯罪事実認定で説明した通りであります。
 本件各犯行は、深夜または早朝に、いずれも一人で歩いていた被害者を見つけると、飯塚事件・小倉事件では帽子を目深に被り軍手を着用し、小倉事件・博多事件では包丁を持ち出すなどの準備をして各被害者の後を追跡して、飯塚事件・博多事件では各被害者の口を手で塞ぐなどし公園内に引きずり込み、小倉事件では公園付近で手提げバッグを引ったくろうとする等しており、犯行時間、犯行場所、襲撃対象を選んで実行しているばかりでなく、犯行発覚を防ぐ準備までしている犯行で、決して激情による衝動的犯行とまで言えません。
 飯塚事件では被害者の首にマフラーを引っ張って気絶させ、左手の軍手を外した上で素手で同人の乳房等を触るなどした上姦淫し、自己が犯人である事が発覚しない様にする為に被害者を殺害したら通行人等に目撃されることを恐れて逃走し、小倉事件では手提げバッグを素早く奪取するために包丁で複数回突き刺して殺害し、現金が入った手提げバッグを強奪し、博多事件では被害者の顔面を手拳で殴打し仰向けに転倒させ、右手で同人の頚部を絞めつける等して失神させ、同人のパンティー等を剥がし姦淫しようとしたが通行人に目撃されることを恐れて犯行を断念し、逃走するにあたり被告人のズボンの裾を掴まえたりして追いすがる被害者を引き離すため、後々の犯行発覚を恐れ包丁で突き刺し、同人から現金在中の手提げバッグを強取し同人を殺害したものであります。
 犯行の動機にしても、小倉事件では手提げバッグの中身を確認し、中にあったマフラーで包んだ財布を取るなどし、手提げバッグ等は用水路に投げ捨てるなどし、博多事件では手提げバッグの中身を確認し、要る物と要らない物を区分けして手提げバッグ等を含めて要らない物を人目に付かない山林に投げ捨てた事実が認められます。
 以上の各犯行前後の状況、態様面で被告人は、その場の状況に応じた態様をしており、本件犯行に至る経緯、動機を含めて精神障害を疑わせる様な不自然、不合理な点は一切認められず、被告人は特に問題になるような妄想や記憶障害、意識障害は無く、過去に精神病歴も無く、しかも本件各犯行前後の日常生活においても、被告人の言動に異常を感じた者は居ないのであり、妄想性人格障害や妄想性障害により本件各犯行が行われたとは到底考えられません。
 本件、各犯行の経緯や動機についてみると、被告人が飲酒やパチンコ等でお金を使い込み、妻に内緒で多額の借金をするようになり、一旦は被告人の実父により借金の大半を清算したが、出会い系サイトを利用していた事を妻に知られたくないとの理由から、利用料の支払に充てる金を借りた事がきっかけで再び借金を重ねるようになり、実父が借金の清算をしてから数ヵ月後には妻に無断で自宅を担保に入れるなどして再び800万円の借金をしており、これを知った妻が愛想を尽かして被告人に冷たい態度をとる様になり、妻から小遣い銭等を貰うことができず金銭に困窮していた事、妻から性交渉を拒まれる様になった事、風俗店に行くお金もなく性欲のはけ口もなく性的欲求への不満があった事等から各犯行に及んだもので、性的欲求や金銭欲に始まり、人命軽視も甚だしく誠に身勝手というほかありません。
 犯行態様が目を覆いたくなるほど残虐であり、いずれも各被害者の人格を無視した強固な計画的殺意ののち非情かつ残酷な犯行というほかなく凶悪な犯行態様であります。これらの凶行の結果3人の尊い命が奪われたもので、各被害者が絶命するまでの間に感じた事、想像絶する肉体的苦痛や無念さ等を考慮すると各犯行の結果が極めて重大であるかが明らかで、また各犯行前、被告人と各被害者との間には何らの接点もなく、まさに通り魔的犯行として社会を震撼させたもので社会に与えた衝撃は著しいものがあります。各被害者は、非常に真面目に人生を送っていたのに、何ら落ち度もないのに理不尽にも突然その生命を奪われ、誠に無念で被害者本人もとより遺族の無念さは筆舌に尽くし難いものがあります。
 被告人の為に酌むべき処置を最大限に考慮し、さらに死刑が人間の生命を奪う究極の刑罰である事に関連し、その適用は慎重におこなわなければならず、犯行の罪質、動機、態様、殺害の手段方法の執よう性、残虐性、結果の重大性、殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合は、死刑の選択も許されるものでなければならないという最高裁判所の判例の趣旨を踏まえると、死刑を宣告した原判決はやむを得ないというほかなく、これが重すぎて不当であるとはいえません。
 結論、よって本件控訴を棄却します。

 被告人は最後まで座らされたまま判決を終えた。

 飯塚事件の被害者は、難病による辛い闘病生活を乗り越え、将来は声優になるという夢を持ち続け、その準備段階として生活費を蓄えるために歯科技工士になろうと、離島にある親元を離れ専門学校に進学し、真面目に学業に取り組んでいた。当時18歳でまさにこれから人生が始まるという時に、被告人の凶行により生命を奪われた。
 当時62歳の小倉事件の被害者は、二人の子供を育て上げ、生活に余裕もでき夫と二人で旅行等をして自分の時間を楽しむ事が出来るようになり、子供の結婚や孫の誕生を楽しみにし、これから人生を愉しもうとしていた矢先、被告人の凶行により生命を奪われた。
 博多事件の被害者は当時23歳で、航空機の誘導等を業務とする会社に就職し、仕事を緊密に熟しながら将来、客室乗務員になるための勉強を続けていた。早朝の通勤途中に被告人の凶行により生命を奪われた。
 各理由の説明の度に、殺害に至る生々しい犯行状況が繰り返し読み上げられた。被害者の生前の暮らしぶりに触れた時には、遺族席からすすり泣く声が漏れた。

 閉廷後、被告人は傍聴席前で立ち止まり、小さな声で「申し訳ありませんでした」と頭を下げ退廷した。

事件概要  鈴木被告は、強盗強姦目的で以下の犯罪を犯したとされている。
1:2004年12月12日、福岡県飯塚市で専門学校生を殺害。
2:2004年12月31日、福岡県北九州市でパート従業員を殺害。
3:2005年1月18日、福岡県福岡市で会社員を殺害。
 鈴木被告は2005年3月8日に逮捕された。
報告者 福太郎さん


戻る
inserted by FC2 system