裁判所・部 福岡高等裁判所・第三刑事部
事件番号 平成19年(う)第190号
事件名 強盗殺人、死体遺棄、殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反(北村実雄)
強盗殺人、死体遺棄、殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、逃走(北村孝)
被告名 北村孝、北村実雄
担当判事 正木勝彦(裁判長)
日付 2007.12.6 内容 被告人質問

 大牟田4人殺害事件、北村実雄被告と孝被告の控訴審第三回公判。
 実雄被告が入廷し弁護人前の長椅子に腰かける。頭を撃った時の後遺症で、足どりや表情が衰え60代の実年齢よりやや老けて見える。その後に入廷した孝被告は、背が高くがっちりした体格の20代の青年。伸びた髪を後ろで束ねている。顔は色白で、沈んだ表情からは寂しげな印象を受けた。大柄な刑務官に伴われ証言席後ろの長椅子に腰かけた。

 本日は、孝被告に対する被告人質問である。(一審で単独犯を主張していた実雄被告は、控訴審初公判で他の被告との共謀を認めたが、孝被告は一審同様「犯行に関与していない」と無罪を主張している)

−孝被告の弁護人による被告人質問−
弁護人「前回の被告人質問で、貴方と真美さんとの関係を答えてもらいましたね。何か補足しておきたい事はありますか?」
被告人「平成16年8月頃に、母ちゃんが柳川で溺れた時に自分と一番下の弟が助けたのに法廷では孝紘に助けてもらったって言っていました」
弁護人「貴方と3番目の弟さんが助けたのに、貴方の裁判で真美さんがそう言われたんですね?」
被告人「はい」
弁護人「前回、ここにいる実雄さんが被告人質問を受けられましたね」
被告人「はい」
弁護人「一審との間で供述を変更されてる中には一部、貴方の事件への関与を認める内容がありましたね。実雄さんがどうしてこの様な供述をされるのか貴方としては、どう考えてますか?」
被告人「母ちゃんと孝紘を助ける為だと思います」
弁護人「私達弁護人が作成した控訴趣意書の中で、貴方のアリバイの主張をしている事は知っていますね?」
被告人「はい」
弁護人「平成16年9月17日午前0時頃の事について伺います。孝紘さんの証言によれば貴方と孝紘さんは馬沖橋からaさんを水の中に落とし込んだ後に・・・・・その後、貴方は内妻を迎えに外出。aさんを殺害した点を除けばその他の経緯は正しいですか?」
被告人「はい」
 孝被告は眼鏡をかけ、その時の道筋を図面に示す。又、内妻からのメール送信履歴一覧表等を確認しながら内妻と会った時間を特定。殺害時刻に現場にいる事が不可能である点について質疑応答が続いた。
 孝被告はボソボソと小声で喋るため、弁護人は孝被告の発言を丁寧に復唱し確認しながら質問が行われた。

○b殺害時について
弁護人「久留米の裁判によるとbさんの殺害に行く際に、合計2台の車で行った事になってますがMTV1台に五人が乗ることは可能ですね?」
被告人「はい」
弁護人「わざわざ2台で行くという事は通常もその様にしているのであれば別ですが、貴方一人がプレジデント1台に乗って行くって事は通常は無いわけですね?」
被告人「はい」
弁護人「久留米での判決によれば、最初から2台で行ったという事になってますが、その後いったん貴方はMTVに乗ったという事になってますね?」
被告人「はい」
弁護人「ところが再度、bさんのお宅に物色に行く際にはまた、MTVと貴方はプレジデントで行ったという事になっていますね?」
被告人「はい」
弁護人「この様にされてる事についてはどう考えますか?」
被告人「・・・一緒でなかったんで自分はプレジデントに乗ってたんで・・・一緒にMTVに乗ってなくて・・・の実家で留守番してたんで・・・一緒に出来ない・・・」
 ここで裁判長が語気を強めて質問した。
裁判長「君は、あれか?物色に行ったことは認めるのか?」
被告人「いいえ違います」
裁判長「君は、何しに行ったんだ?」
被告人「ついて来いって言われて」
裁判長「何をする目的か知らなかったのか?」
被告人「はい、分からなかった」
裁判長「途中から、何しに行くか分らなかった?」
被告人「分りませんでした。車の中に居たままだったので」
裁判長「そこが、bさんの家の近くかどうかくらい分かるんじゃないの?」
被告人「近くは近くです」
裁判長「およそ見当は付くんじゃないの?何しに行ったかって事ぐらいは」
被告人「そんな深くは考えませんでした」
裁判長「ほー考えなかったか?」
被告人「はい」
裁判長「わかりました。どうぞ」
弁護人「事件の後、警察に発覚する前に孝紘さんが諏訪川に潜って死体を探すことがありましたね?」
被告人「はい」
弁護人「貴方は孝紘さんが諏訪川に潜っている間、どこに居ましたか?」
被告人「・・・です」
弁護人「貴方は一緒に潜ってないんですよね?」
被告人「はい」
弁護人「仮に犯行に関与していたなら、この様なことはあり得ますか?」
被告人「いいえ、あり得ません」
 孝被告は、水泳を習っていた事があり孝紘被告より水の中は得意であるとの話であった。

−孝被告の弁護人が交代して質問が続く−
弁護人「本件事件の自白後、本当は殺ってないんだという事を誰かに話しましたか?」
被告人「久留米警察署の留置所の担当の方に話しました」
弁護人「刑事さんには殺ったって言って、留置所の方には殺ってないって言ったのはなぜですか?」
被告人「自分の話を聞いてくれて、怒ってくれる時はちゃんと怒ってくれる。この人は信用していい人間だと思ったから言いました」
弁護人「具体的には、どういった話をしたんですか?」
被告人「自分は関わってないけど、かばわないかん様になっとるって言いました」
弁護人「何回くらい話したんですか?」
被告人「2,3回くらい話しました」
弁護人「留置所の担当の人以外に話しましたか?」
被告人「同房の人に話しました」
弁護人「具体的には、どういった話をしたんですか?」
被告人「事件の事は知らんかったって言いました」

−実雄被告の弁護人による被告人質問−
弁護人「貴方は本件で逮捕されてから、お父さんの顔、体をよく見たことがありますか?」
被告人「はい」
弁護人「今ここで、確認出来ますでしょうか?」
被告人「はい」
 孝被告が、実雄被告の顔を見つめる。
弁護人「貴方が知っているお父さん、逮捕される以前のお父さんは、この様な顔や体つきをしていましたか?」
被告人「いいえ」
弁護人「どんな感じでしたか?」
被告人「もう少し、がたいが良かったです」
弁護人「顔つきはどうでしたか?」
被告人「このままの優しい顔です」
弁護人「以前と比べてどうですか?」
被告人「今も変わらず優しいです」
弁護人「貴方から見たお父さんは、どういった方でしたか?」
被告人「すごい人です」
弁護人「具体的には、どういった所がすごいですか?」
被告人「自分が中学生の頃に家が火事になった時、姉ちゃんだけが取り残された時に・・・親父が走っていって姉ちゃんを助けに行ったことがあるんです。そういう所が・・・」
 涙で言葉を詰まらせながら話した後、ハンカチで顔を拭った。
弁護人「勇気があるところが好きですか?」
被告人「はい」
弁護人「一審で死刑判決を受けた後の面会で、実雄被告人が涙を流しながら『助けてあげられなくてごめん』と言ったそうですが、これはどういう意味があるんですか?」
被告人「自分には分かりません」
弁護人「話の流れとか思い出せませんか?」
被告人「ちょっと思い出せません」
弁護人「貴方が判決を受けた時に実雄被告人が謝ってたという事ですね?」
被告人「そんな感じです」
弁護人「他には何かお父さんの事で覚えてる事はありますか?」
被告人「みんなを可愛がってくれました」
弁護人「貴方のお姉さん妹、弟を分け隔てなく可愛がっていらっしゃいましたか?」
被告人「はい」(因みに孝被告は真美被告の連れ子である)
弁護人「お母さんに対してのお父さんはどうでしたか?」
被告人「普通だったと思います」

−検察官による被告人質問−
検察官「お母さんの真美被告が君に不利な発言をしていると、君は言うのですね?」
被告人「はい」
検察官「お母さんが君に不利な証言をするのは、孝紘を無期にする為だと君は言うわけですね?」
被告人「はい」
検察官「しかし、お母さんは孝紘がbさんとc君とa君3人を殺した事を証言してるんですよ。それでも無期になると思ってるんですか?」
被告人「自分と親父と孝紘から無理矢理させられたと、精神的に・・・無期になると思ってるんじゃないですか」
検察官「現実的には、一審で孝紘は死刑になってるんですよ。孝紘が死刑判決を受けた事、どう思ってるんですか?君の言ってる事は当たってないわけですよね?はたして、君が言う様にお母さんが孝紘を無期にする為に君の事を悪く言ったのかどうか、本当に君はそう思ってるんですか?」
被告人「はい」
検察官「君もc君とd君を殺したという事をお父さんも認めるに至ってるんだけど、これも孝紘を無期にする為だと思ってるんですか?」
被告人「いいえ、孝紘と母ちゃん」
検察官「どういう事なんですかね、現実に孝紘と母ちゃんは死刑になってるんですよね。2審でひっくり返ると思っているんですか?」
被告人「・・・・(聞き取れない)」
検察官「しかし、殺ってない君を親父は今更巻き込もうとするんですか?」
被告人「助けたいんじゃないですか、孝紘と母ちゃんを」
検察官「前回、君の生い立ちの話で、お母さんからしょっちゅう暴力を受けていたと、それならば君も他人に暴力を振るうのに大した抵抗はないんじゃないですか?」
被告人「逆だと思います。暴力を受けていたから抵抗があると思うんですけど」
検察官「お母さんから虐待を受けていたというのは間違いないんですか?」
被告人「はい」
検察官「君が言う様に、お母さんは君と孝紘を比べて孝紘を好きだと、ひいきにしていると言う事になると、それは何故なんですか?」
被告人「何故かって、自分に聞かれても分りません」
 この後、取り調べ時の検事とのやり取り等について質問があったが、孝被告の声はほとんど聞きとる事が出来なかった。
検察官「捜査段階で自白の調書が作られてますよね、この調書は信用出来るんじゃないんですか?」
被告人「出来ないですね」
検察官「たとえばね、bさんの遺体を川に棄てた時間が、平成16年9月18日の午前3時30分頃と一審の判決に書かれてるんですけど、これは君が捜査官に対して供述した事がきっかけで認定されているんですよ。『まだワゴンアールを沈みきれないのかという電話をした』との供述から、電話履歴を調べると確かに君がお母さんの所に電話をしている事が判明しているんですよ。こういった例からも君の自白調書は信用出来るんじゃないですか?」
被告人「それは警察が考えて作った事じゃないんですか」
検察官「携帯のやり取りも視野に入れてですか?」
被告人「はい」
検察官「君は警察官調書で、bさんらの死体遺棄事件で逮捕された後しばらく否認していたが、その理由について『死体遺棄を認めれば3人を殺した事に話が及ぶし、aの殺害も正直に話さなければ話のつじつまが合わなくなってくる。そうなると死刑だ。だから話さなかった』また、当時はオカンと孝紘がそれぞれ一人で殺ったんだと主張して・・・『自分の罪まで二人に押し付けるのは申し訳ないと思ったからだ』だから自白したんじゃないんですか?」
被告人「そんな事は言ってません」
検察官「もし自分が全くの無実だとしたら、もう少し叫んだり泣いたり訴えるんじゃないんですか?」
被告人「・・・・(聞き取れない)」

−左陪席の裁判官による被告人質問−
裁判官「真美被告や孝紘被告から最近手紙とか来ているんですか?」
被告人「来てますね」
裁判官「最近も来てるんですか?」
被告人「はい」
裁判官「どの位のペースで来てるんですか?」
被告人「週に1回」
裁判官「2人ともですか?」
被告人「はい」
裁判官「どんな事が書いてあるんですか?」
被告人「家族の事とか」
裁判官「お母さんの手紙には、どんな事が書いてあるんですか?」
被告人「家族の事、姉ちゃんに新しく子供が産まれたとか」
裁判官「貴方について何か書かれてないんですか?」
被告人「頑張りなさいって書いてあります」
裁判官「貴方の腰の事とか、体の具合を気遣うような事は書いてないんですか?」
被告人「親父からの手紙には腰の事とか色々と書いてあるんですけど、母ちゃんのには書いてないです」
裁判官「具合はどうかと、お母さんの手紙には書いてないんですか?」
被告人「いや、ないですけどね」
裁判官「事件の事については、一切何も書いてないって事ですか?」
被告人「はい、事件の事は何もないです」
裁判官「弟の孝紘さんからの手紙にはどういう事が書いてあるんですか?」
被告人「母ちゃんに似たような感じで、家族の事を教えてくれたり」
裁判官「真美被告や孝紘被告から事件の事を認めろだとか、貴方の事を悪く書いてあるなんて事はあるんですか?」
被告人「ないです」
裁判官「普通の親子や兄弟の手紙って事ですか?」
被告人「はい」
裁判官「返事は書いてるの?」
被告人「はい書いてます」
裁判官「どんな事を書いてるの?」
被告人「姉ちゃんに子供が産まれたって書いてあるから元気にやってますって書いたりとか」

−裁判長による被告人質問−
裁判長「君は平成13年6月に傷害致死で判決を受けてますよね。家族の中では、君が一番不利な立場にあるからと君を一生懸命かばおうとしたんじゃないのか?」
被告人「わかりません」
裁判長「わからない?」
被告人「はい」
裁判長「今さっき弁護人の質問で、お父さんはすごいって、火災に遭った時にお姉さんを助け出した話ありましたね、そういう風に思いましたね?」
被告人「はい」
裁判長「そういう風にね、貴方達家族は非常に家族愛や結束力が強くあるのに、では他人に対してはどういう風な気持ちを持ってるのかって感じるんですけどね?」
被告人「自分は、お金お金って言って母ちゃんを押さえてしまって・・・自分に責任があると思ってます」
裁判長「家族に対してこんなにも解り合ったり、かばい合ったりするのが、どうして他人に対してこんな事件を犯したりしたのか貴方自身は考えた事はありませんか?」
被告人「わかりません」
裁判長「わからない?」
被告人「はい」

 被告人質問が終わり、弁護人から提出されていた真美被告、孝紘被告等の証人尋問は何れも却下され、次回期日を告げ閉廷した。

事件概要  被告達は、福岡県大牟田市において、以下の犯罪を犯したとされている。
1:2004年9月16日夜、孝被告は弟・孝紘被告と共に、親の知人の次男を強盗目的で絞殺。
2:同月18日未明、孝紘・孝・実雄被告と、実雄被告の妻の真美被告の4人は、強盗目的で1の被害者の母親を絞殺。
3:同日、4被告は、1の被害者を探していた同人の兄とその友人を、口封じのために射殺。
4:10月13日、孝被告は同行した警察官の隙をついて福岡地検久留米支部から逃走し、約三時間後に熊本県で身柄を確保された。
 孝被告は2004年10月2日に逮捕された。実雄被告は9月22日に大牟田署に出頭し、取調室で拳銃自殺を図り重傷。傷が癒えた10月7日に逮捕された。
報告者 福太郎さん


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