裁判所・部 | 福岡高等裁判所・第一刑事部 | ||
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事件番号 | 平成17年(う)第699号 | ||
事件名 | 監禁致傷、詐欺、強盗、殺人、殺人(認定罪名傷害致死) | ||
被告名 | 松永太 緒方純子 | ||
担当判事 | 虎井寧夫(裁判長) | ||
日付 | 2007.9.26 | 内容 | 判決 |
北九州監禁連続殺人事件の控訴審判決公判が福岡高裁501号法廷で開かれた。 この日、裁判所前は75枚の一般傍聴券を求めてやって来た人達でいっぱいだったが、半分近くは報道関係者らしきワイシャツ姿の男性だった。抽選に当り、法廷内に入ると遺族席はなく記者席が13席設けられていた。 午後1時半過ぎ、開廷前のビデオ撮影後、いつもと同じ濃紺のスーツに白いワイシャツを着た松永太被告が入廷した。手錠を外される間、弁護人が松永被告の前に来て話しかけていた。 後に入廷した緒方純子被告は、白っぽいブラウスに薄茶色の長スカート姿だった。 刑務官を挟んで二人は横並びに座った。 裁判長「そのまま座ったまま言い渡します。まず理由から述べます」 主文を後回しに理由の朗読が始まると記者席の人達が慌ただしく法廷から出て行った。 松永被告は眼鏡をかけ、ひざの上に広げたノートにメモを取り始めた。緒方被告は、まっすぐ前を見たままじっと判決を聞いていた。 −理由− ○松永太被告 逃亡中の生活資金欲しさに悪行を繰り返し、被害者らに激しい虐待を加えて金銭を引き出した。 緒方被告の親族らに巧みに負い目を負わせて支配下に置き、家族同士を疑心暗鬼に陥れて家族の絆を切断し、犯罪に加担させ精神的に救いのない状態に追い詰めた。 自尊心を奪い無気力にさせ、次々と肉親の殺害にまで手を下させた、我が国の犯罪史上、まれにみる冷酷残忍で凶悪な事件である。 被害者らの遺体は解体された上、肉片は煮て溶解させ公衆便所に流したり、公園の植え込みに捨てた。骨片は砕いて海中に投棄するなど徹底的に証拠を隠滅しており、人命を軽視する態度は顕著である。 殺人行為と遺体の解体には一切、直接手を下さないようにしたことから、初めから犯行発覚時に自分だけが罪を免れようと計画していたとすら考えられる。 被害者に虐待を加えて逃走資金を引き出し、利用価値がなくなると殺害することも辞さなかった犯行は、松永被告の極端な自己中心性の表れで、警察の裏をかいてあざ笑うような手口は、まさに法を恐れぬ所業である。 事件発覚後、緒方被告に責任転嫁し自分だけが罪を免れようと不合理、不自然な弁解に終始した。真摯な反省の態度が見られず、刑事責任は極めて重大で、死刑を選択されるべきは当然である。 ○緒方純子被告 松永被告との間に子ども2人がおり、警察に捕まらずに子どもたちとの生活を続けたい、一緒に逃げ延びたいとの気持ちがあったことは否定できない。 しかし、長年にわたり松永被告から殴る蹴るの暴行を受け続けたばかりか、煙草の火で胸に「太」と名前の焼き印を入れられ、安全ピンと墨汁で「太」と入れ墨も入れられた。特に一定期間、集中的に通電等の暴力を受けた。 DV被害者特有の特殊な心理状態に陥った。DVなどの影響で松永被告に逆らえず犯行に加担した面も強い。 被害者の内、特に元警察官で、精神的、肉体的に問題がなく、意思を貫く性格と言えるeが、親族の死体の解体作業や殺害等に抵抗もせず加担していることは、松永被告の人身操縦技術が巧妙で、通電などの虐待が被害者らの人格に少なからず影響を与えたと考えなければ到底理解できない。この点は緒方被告の量刑を考えるにあたって考慮すべき一つの要素である。 松永被告からの暴力、虐待の影響で、正常な判断力がある程度低下していた可能性は否定できない。 各殺害に独自の動機がなく、本意とは考えられない殺人の実行行為や死体の解体作業をさせられるなど松永被告の手足として汚れ役を強いられた。 事件は松永被告が発想し、緒方被告が追従した。 殺害された被害者の数など、事件の重大性からすれば、緒方被告の責任の重さは計り知れない。 しかし、松永被告の存在抜きには緒方被告が各罪を犯すことは考えがたく再犯の可能性も高くない。積極的に自白し、真摯に反省している。人間性が回復している様子がうかがえる。記憶の範囲内で隠し立てすることなく自白し事件解明に寄与した。 松永被告と比べると酌むべき事情には格段の差があり、極刑をもって臨むには躊躇せざるを得ない。無期懲役に処し、終生しょく罪の生活を送らせるのが相当である。 裁判長「それでは、前に出てください」 証言台の前に立った両被告人に裁判長から主文が言い渡された。 −主文− 松永被告の控訴を棄却する。 緒方被告を無期懲役とする。未決勾留日数のうち360日を刑に算入する。 訴訟費用は被告人に負担させない。 最後に、裁判長から「わかりましたね」と尋ねられると松永被告は、はっきりとした口調で「はい」と答え、緒方被告は、深々と頭を下げた。 閉廷後、緒方被告に手錠をかける女性刑務官が、笑顔で緒方被告の顔を覗き込んでいた。 緒方被告は戸惑いの表情のまま頭を下げ法廷を後にした。 松永被告は、立ったまましばらく弁護人と話をした後、ニヤニヤ笑みを浮かべて退廷した。 | |||
事件概要 |
松永被告は福岡県北九州市において、財産を奪うため、被害者を精神的支配下に置く手段として暴力を用いた結果、緒方被告や被害者を使って以下の犯罪を犯したとされる。 1:1996年2月26日、知人男性を暴行の末、死亡させる。 2:1997年12月21日、緒方被告の父を殺害。 3:1998年1月20日、緒方被告の母を殺害。 4:1998年2月10日、緒方被告の妹を殺害。 5:1998年4月13日、緒方被告の妹の夫を殺害。 6:1998年5月17日、緒方被告の甥を殺害。 6:1998年6月7日、緒方被告の姪を殺害。 2002年3月7日、第一事件の被害者の娘が逃げて保護されたことにより事件発覚し、両被告が逮捕される。 |
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報告者 | 福太郎さん |