裁判所・部 福岡高等裁判所・第三刑事部
事件番号
事件名 強盗殺人、死体遺棄、殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反
被告名 北村孝紘、北村真美
担当判事 正木勝彦(裁判長)
日付 2007.9.13 内容 証人尋問

 9月13日午後1時30分から、大牟田4人殺害事件の控訴審第四回公判が開かれた。
 傍聴人の入廷が始まった時、被告人の関係者とみられる人達が来ている以外は少なめだった。
 最前列の中央の席に、赤ん坊を抱いた年配女性が座り、係員から「(裁判中)子どもがグズった時は出てくださいね」と、お願いされていたが、開廷までの時間出たり入ったりと既に落ち着いてなかった。
 遺族席は、左側1列目と4列目に用意されており、席の場所まで職員が案内していた。

 被告人入口ドアが開き、北村真美被告が入ってきた。白色のジャージ姿で髪を束ねており、太めで体格の良い女性である。弁護人前の長椅子に腰かけた真美被告は、傍聴席の方に軽く笑顔を見せた。しかし、遺族席側からは顔がはっきり見える場所でもあり、その後は硬い面持ちで座っていた。
 続いて、濃紺のスーツ姿で現れた北村孝紘被告は、今でもかなり太っていて、伸びた髪をポニーテールの様に束ねていた。傍聴席の方を見ながら入って来た後、手錠を外される時に母親である真美被告と互いに笑顔で顔を見合わせた。証言台後ろの長椅子に腰かけた時にはサングラスをかけていた。
 この時、先ほどの赤ん坊が「アッー」と声を出し始めた為、女性が抱いて出て行った。被告人に赤ん坊の姿を見せるのが目的の様だったが遺族には、どう映っただろう。

 開廷後、弁護人から孝紘被告に健康状態について質問がされた。サングラスをかけたのは体調に関係している様だったが公判中は外していた。
 この日、弁護側証人として実雄被告が出廷した。小柄でやせ細った初老の男性だった。
 孝紘被告は満面の笑みで父親を迎えた。実雄被告も笑顔を見せ軽くうなずいた後、真美被告とも顔を合わせて互いにうなずいた。

−真美被告の弁護人による証人尋問−
弁護人「結婚してから北村組を立ち上げたんですよね。人数は何人位いましたか?」
証人「多い時で、20から30人くらいでしょ」
弁護人「真美さんは若い者の面倒を見てくれていたと思いますか?」
証人「はい」
弁護人「その点では真美さんに感謝してますか?」
証人「はい」
弁護人「お金は集まってたんですか?建設会社を一緒にしてましたね、建設の収入の方が多かったんじゃないんですか?」
証人「はい」
弁護人「北村家には他に5人の子どもさんが居たんですよね、生活は楽だったですか?」
証人「はい」
弁護人「借金はありましたか?」
証人「少しはあったんじゃないですか」
弁護人「具体的には聞いてなかったんですか?」
証人「はい」
弁護人「夫婦関係はいい方でしたか?」
証人「はい」
弁護人「夫婦ですから時々は喧嘩はありますよね?」
証人「はい」
弁護人「真美さんはあなたの指示に逆らうような事はありましたか?」
証人「ないですねえ」
弁護人「なぜですか?」
証人「信頼してたからじゃないですか」
弁護人「あなたは真美さんに暴力を振った事はありますか?」
証人「だいぶ前にはあります」
弁護人「肋骨を折った事があったんですか?」
証人「はい」
弁護人「真美さんに発砲した事はありますか?」
証人「ありません」
弁護人「息子さんに対して発砲した事はありますか?」
証人「ありません」
弁護人「真美さんを殴ったりして押し付けた事はあるんですか?」
証人「あるでしょう」
弁護人「それに対して口答えはありましたか?」
証人「ありません」
弁護人「孝君や孝紘君に対して手を挙げた事はありますか?」
証人「ありません」
弁護人「小さい時、子どもの頃はありませんか?」
証人「ありません」
弁護人「今回の事件、自分一人でやったと言ってますよね、なぜですか?」
証人「みんなをかばう為」
弁護人「他の人が認めたらかばえない事わかってますよね、あなたの意地ですか?」
証人「いいえ」
弁護人「拳銃自殺を図ったのはなぜですか?」
証人「みんなをかばう為ですね」
弁護人「あなたが亡くなったら真相がわからないですよね?」
証人「私が死んだらそれで終わりじゃないですか」
弁護人「今回証人が控訴された理由は何ですか?」
証人「事件をはっきりさせるため為」
弁護人「はっきりさせる為でよろしいんですか?」
証人「はい」
弁護人「一審では、一人でやったとしているのを今回の控訴審では三人で共謀したと変えている理由はなぜですか?」
証人「事件をはっきりさせる為」
弁護人「真美さんがあなたに送った手紙を読んだ時、どう思いましたか?」
証人「申し訳ないと思いました」
弁護人「具体的に誰に対してですか?」
証人「孝と孝紘です」
弁護人「この手紙を読んで真相を話したいと思ったと考えてよろしいですか?」
証人「はい」
弁護人「bさんを殺害しようと思った理由についてお聞きします。bさんが真美さんを苦しめるという事で、真美さんの苦しみを和らげるとなってますがそうゆう事でよろしいんですか?」
証人「はい」
弁護人「bさんと真美さんの仲はどうでしたか?」
証人「仲は良かったんじゃないですか」
弁護人「真美さんからbさんに苦しめられてるとの話はなかったですか、工事代金を払ってもらえないとの話ありましたか?」
証人「聞きました」
弁護人「敵意は抱いてないですか?」
 ここで、裁判長から弁護人に対して、事件の内容に入る事についての質問はしない様、注意があった。
弁護人「現在、手紙のやり取りはされていますか?」
証人「私からは週に一回くらいです」
弁護人「お互いの安否を気遣う手紙ですか?」
証人「はい」
弁護人「孝紘被告とはしてますか?」
証人「してますよ」
弁護人「一審で真美さんが死刑を受けたと聞いた時の気持ちはどうでしたか?」
証人「刑が重いと思いました。私の為にこんな事件を起こしてしまってすまないと思いました」
弁護人「私の為とはどうゆう事ですか?」
証人「私が至らなかったという事です」
弁護人「止めればよかったという事ですか?」
証人「はい」
弁護人「真美被告以外、孝紘被告や孝被告に対しても思っているんですか?」
証人「はい」
弁護人「bさんに対しては、どうですか?」
証人「大変申し訳ないと思っています」
弁護人「b家の遺族に対してはどうですか?」
証人「大変申し訳ない・・・・」

−孝紘被告の弁護人による証人尋問−
弁護人「孝紘君が産まれた時の気持ちは?」
証人「やっぱ自分の子どもが産まれたら嬉しいでしょう」
弁護人「一番可愛がっていましたか?」
証人「みんな同じじゃないですか」
弁護人「孝紘君の性格はどうですか?」
証人「優しい子ですよ」
弁護人「Y1さんの調書では兄弟の中で一番優しい性格だったとありますが、やんちゃな面はありましたか?」
証人「はい」
弁護人「Y2さんの調書や真美さんが裁判の中で体の弱い子どもや弱点をもった子どもには優しかったと言ってますがどうですか?」
証人「はい」
弁護人「相撲部屋に修行に行った理由は、自分から行ったんですか?」
証人「はい」
弁護人「帰ってきましたね、その後少年院に入ってますが他の誰かの罪をかぶったのは他人の指示ではなく自分からかぶった?」
証人「はい」
弁護人「少年院から帰って来てY3さんとの交際知ってました?」
証人「はい」
弁護人「孝紘君はY3さんの事好きだった?」
証人「はい」
弁護人「実雄さんから見て孝紘君の組員としての働きはどうでしたか?」
証人「立派でした、礼儀正しく立派でした」
弁護人「将来を期待していましたか?」
証人「はい」
弁護人「組員として生きていってほしかった?」
証人「はい」
弁護人「やくざには、なってほしくなかったと思ってなかったんですか?」
証人「はい」
弁護人「実雄さんの指示に従っていましたか?」
証人「はい」
弁護人「孝紘君は真美さんと実雄さんどっちを怖がってましたか?」
証人「どっちですかねえ」
弁護人「孝君と孝紘君の力関係はどうでしたか?」
証人「孝の方が上」
弁護人「真美被告の調書では悪い事をする時は、指示は孝、実行は孝紘との事ですが、あなたはどう思いますか?」
証人「そうじゃないですか」
弁護人「孝被告の方が上だと感じる点は?」
証人「兄弟だから」
裁判長「兄弟だから兄貴を立ててたという事ですか?」
証人「はい」
弁護人「孝紘君にも死刑が言い渡された時どう思いましたか?」
証人「刑が重いと思いました」
弁護人「どんな刑であってほしかったですか?」
証人「この事件は私が主犯で・・・」
弁護人「有期刑であってほしかったですか?」
証人「はい」
弁護人「真美さんに対してもですか?」
証人「そうです」
弁護人「手紙に『最愛最強の俺の自慢の息子孝紘君へ』と書かれてますが自慢に思っていますか?」
証人「はい」
弁護人「今一番言いたい事は何ですか?」
証人「俺は、孝紘に対して謝らなければならない。一番大切な息子に対して人殺しをさせるような事をして謝っても謝りきれない」
弁護人「すべては実雄さんや真美さんの為にやった事ですか?」
証人「はい」
弁護人「無期や有期刑になった場合、立ち直れると思いますか?」
証人「思います。それだけしっかりやってるから・・・」
弁護人「自分の人生を振り返ってどうですか?」
証人「やり直したいですね。事件の前からやり直したいです。私がしっかりしておけばよかったんじゃないですか」
弁護人「二人に言い残したい事はありますか?」
証人「まあ、しっかりがんばってほしいですね」

−裁判官から証人への質問−
裁判官「二人から呼んでほしいとの希望がありましたがどう思いましたか?」
証人「事実を述べようと思って」
裁判官「出たかった、出たくはなかったですか?」
証人「証人として話したいと思いました」
裁判官「二人に対して他に言いたい事はありますか?」
証人「しっかり頑張ってほしい。それだけですね」

 ここで、裁判長から証人へ退廷を告げられたが、弁護人から被告人に対して現在の心境を質問したいと申し出があり、検察官の同意を得て異例の事だとしながらも認められた。

−真美被告が証言席に座る−
弁護人「実雄さんの証言を聞きましたね。今日、率直に感じた事を話してください」
被告人「自殺したりして頭を撃ってるんで記憶がないみたいですけど覚えてる事実を話してほしい。亡くなった方には申し訳ないけど家族として前を向こうという事を言いたかった」
 話の途中で真美被告は、後ろに座っている実雄被告の顔を見て「人としてのプライドを持ってほしい」夫に訴えかけるように話をしていた。
 続いて、孝紘被告は実雄被告の前に進み、法廷に響き渡るほどの大きな声で「オスッ!」と頭を下げた。

−孝紘被告が証言席に座る−
被告人「最後に言う事を言ってくれてうれしいのと・・・俺は俺の意思でやった事、俺はどんな事があろうとも父ちゃん母ちゃんについていっちゃあ・・・親として子分としてついていくけん、親として胸張って生きていってほしい」

 被告人質問が終わり実雄被告は退廷する時、遺族席に目をやっていたが無表情だった。
 午後2時45分、次回の公判日を告げ閉廷した。

事件概要  被告は、福岡県大牟田市において、以下の犯罪を犯したとされている。
1:2004年9月16日夜、孝紘被告は兄・孝被告と共に、親の知人の次男を強盗目的で絞殺。
2:同月18日未明、孝紘・孝・真美被告と、真美被告の夫の実雄被告の4人は、強盗目的で1の被害者の母親を絞殺。
3:同日、4被告は、1の被害者を探していた同人の兄とその友人を、口封じのために射殺。
 真美被告は2004年9月22日に、孝紘被告はその3日後に逮捕された。
報告者 福太郎さん


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