裁判所・部 福岡高等裁判所・刑事一部
事件番号 平成17年(う)第699号
事件名 監禁致傷、詐欺、強盗、殺人、殺人(認定罪名傷害致死)
被告名 松永太 緒方純子
担当判事 虎井寧夫(裁判長)
日付 2007.3.30 内容 被告人質問

 3月30日午後1時30分から、北九州連続殺人事件の控訴審第四回公判が第501号法廷で開かれた。本日は緒方純子被告への被告人質問である。
 前回までは、松永太被告に対する被告人質問が行われており、今回初めて緒方被告が被告人席に座った。
 小柄で、か細い体型で、艶のない髪を背中まで伸ばしている。その後ろで松永被告は、持参した赤い手提げ袋から出された裁判資料に目を通していた。
 まず、94年に大分県別府湾で飛び込み自殺したとされる女性について質問が始まった。(控訴審第一回公判で松永被告側は、新たに、緒方被告がこの女性を水死させており、これを知った親族の口封じの為、一連の殺人事件につながっていると主張している)

―主任弁護人による被告人質問―
弁護人「hさんが、どうして死んだのか伺います。貴女が海に突き落とした事は、ありますか?」
被告人「ありません」
弁護人「松永に、hさんを海に突き落としたと言った事は、ありますか?」
被告人「ありません」
弁護人「hさんを監視しろと、松永に言われた事はありますか?」
被告人「はい」
弁護人「どんな言葉で、言われましたか?」
被告人「姿を見失なわないように言われました。車の運転以外は、私の長男をhさんに抱いて貰う様に言われました」
弁護人「3月31日について聞きます。貴女は、hさんと何回出かけましたか?」
被告人「二回です」
弁護人「最初、何をしに出かけましたか?」
被告人「区役所に書類を取りに出かけました」
弁護人「(宿泊していた)ホテルマーメイドに戻った時、貴女に子どもを渡した後、hさんはどうしましたか?」
被告人「hさんは、走って行きました」
弁護人「貴女は、どうしましたか?」
被告人「追いかけて行きました」
弁護人「ホテルマーメイドの建物と入り口がわかる様に書いてもらえますか?」
 弁護人と検察官が被告人の横に立ち地図を見ながら説明を受ける。
弁護人「フロントを出た時、hさんはどこにいましたか?」
被告人「見えませんでした」
弁護人「道に貴女が出た時、見えましたか?」
被告人「見えました。左右を確認して、右側を見た時、北に向かって走って行くのが見えました」
弁護人「どの位、追いかけましたか?」
被告人「公園くらいまで、追いかけたと思います」
弁護人「追いかけるのを止めたのは、何故ですか?」
被告人「子供を抱いていたし、距離が離れていたので諦めました。防波堤に人影が見えたので、変に思われてはいけないので、引き返しました」
弁護人「貴女は、hさんの事、松永にいつ報告しましたか?」
被告人「ホテルに帰って報告しました」
弁護人「電話で報告した事は、ありますか?」
被告人「ないと思います。携帯電話を持っていたかの記憶はないですが、部屋に帰って報告したと思います」
弁護人「hさんが一緒にいない事、どう報告しましたか?」
被告人「h先輩が逃げたよって言った気がします」
弁護人「松永から、何か言われましたか?」
被告人「『だから、hちゃんに子どもを抱かせとけって言っただろう。』と、言われたと思います」
弁護人「松永は、hさんを探しに行こうと言いましたか?」
被告人「言わなかったと思います。その後、救急車の音がして松永が『もしかして、hちゃんやない?』と言ったので、『まさか自殺はせんやろ』と、言いました」
弁護人「何故、そう言ったんですか?」
被告人「私は、逃げたんだろうと思ったんで、そう言いました」
弁護人「hさんは、松永から暴力を受けていましたか?」
被告人「この頃のhさんは、松永に絶対服従でした。暴力に関しては、目にチューブの辛子を塗り込まれていたのを見ました」
{写真の資料を示して}
弁護人「hさんの着ている洋服は、貴女の服ですか?」
被告人「そうです」
弁護人「上半身にかなりアザが見えますが、どの様にして出来たアザですか?」
被告人「たぶん、松永が、かかとで胸を蹴った様に思います」
弁護人「首を叩いてできたと、松永は言ってましたが、貴女は首を叩かれるとどうなりますか?」
被告人「空手チョップで叩かれると、食べ物が喉を通りにくい・・・声が、ガラガラになりました」
{別の写真を示して}
弁護人「これは、貴女の上半身ですか?」
被告人「はい」
弁護人「かなりのアザがありますが、どの様にして出来たものですか?」
被告人「正座をしている私の胸を、松永が蹴りました」
弁護人「緒方一家が、松永に対して書いた念書・・・・です。念書について聞きます、貴女は作成した事がありますか?」
被告人「eさんは覚えていませんが、父、母、妹、gちゃん、f君の(殺害)を、一枚の念書として、書きました」
弁護人「書いたのは、いつですか?」
被告人「書いたのは、平成11年だったと思います。松永が指示する所に、私が保管してありました。松永が、シュレッダーにかけ、また書けと言われて、そんな事が、二回か三回ありました」

―別の弁護人による被告人質問―
弁護人「hさんは、なぜ逃げたんですか?」
被告人「嫌になったんだと思います」
弁護人「徴候は、ありましたか?」
被告人「暴力を受けたり、子供さんを亡くされたり、その頃の生活は良いものではない事、私、わかってたし」
弁護人「hさんに対しての、暴行はどんなものでしたか?」
被告人「最初に見たのは、平成5年の夏頃位で、髪を持って引きづり廻したり、叩いたり・・・通電がありました」
弁護人「どの様な通電でしたか?」
被告人「クリップを付けた通電や、裸線に・・・・の、通電がありました」
弁護人「今日、遺体の写真、ありましたね。hさんの写真見たの十三年ぶり位ですか?写真見て、どう思われましたか?」
被告人「いやあ・・・悲しかったです」
 最後の質問には、かすれた声を振り絞るように答えていた。
 この後、裁判長から追いかけた後ホテルマーメイドに戻ってきた時間の質問があったが、わかりませんと、答えている。

―再び、主任弁護人による被告人質問―
弁護人「松永と、交際が始まったのは、昭和55年、松永からの電話があってからですか?」
被告人「そうです」
弁護人「松永と付き合って、彼氏だと思う様になったのはいつですか?」
被告人「昭和59年頃だったと思います」
弁護人「松永が貴女に暴力を振るう様になったのは、いつ頃ですか?」
被告人「昭和59年の秋位だと思います」
弁護人「ハンドルを握る手を叩かれる。スニーカーで、頭を叩かれる。サイドブレーキを急に引かれる。様々な言葉による暴力・・・。等が、ありましたね。最初に叩かれた理由を覚えていますか?」
被告人「はっきりした事はわかりませんが、母が松永の事を調べているとの話があった・・・。と、思います」
{写真の資料を示す}
弁護人「これは、ラブホテルで撮られた写真ですね?」
被告人「そうです」
弁護人「貴女は裸で、マジックで、太の女緒方純子と、書かれていますが、松永が書いたんですか?」
被告人「はい」
弁護人「松永は、写真を撮る事を、二人の性的興奮を高める為と言っていますがどうですか?」
被告人「いいえ、違います」
弁護人「字が書かれた事、覚えていますか?」
被告人「見ても、はっきり思い出せません」
弁護人「松永から暴力を受けた時、痛いからやめてと言った事は、ありますか?」
被告人「無いと思います。まず、お前が悪いからだと言われて何を言っても仕方ないと思いました」
弁護人「この頃から、家族や友人との付き合いがなくなり、良好な関係も断たれて自殺未遂図ってますね?」
被告人「私が生きていたら、周りの人に迷惑がかかる・・・・。と、思いました」
弁護人「松永の暴力が嫌になったということは?」
被告人「たぶん、それもあったろうと思います」
弁護人「松永と別れようと思ったことは?」
被告人「あります」
弁護人「いつ頃ですか?」
被告人「暴力を受け始めてからです」
弁護人「貴女は、松永に別れたいと言った事は、ありますか?」
被告人「暴力を受け始めて、何かおかしいなと、思ったので言いました」
弁護人「松永は、どうしましたか?」
被告人「拝み倒すまでにはいきませんでしたが、暴力に対しては、謝ったと思います」
弁護人「自殺未遂の前ですか?」
被告人「そうです」
弁護人「髪を掴まれ・・・。正座のまま胸部を蹴られる。・・・。睡眠をとらせない。刺青、焼印、性的暴力・・・。これは、貴女が寝ているところの写真ですね。右の乳房に赤く、太という字がありますが、焼印ですか?松永の話では、煙草の火をぎりぎりのところまで近付けてと、ありましたが。入れ墨は、どの様にしてどこに彫れられましたか?」
被告人「右の太ももの付け根あたりです。バスタオルを被らされていたのでわかりません。暴力の後に、顔にバスタオルをかけられ、安全ピンでチクチク入れられました」

―別の弁護人による被告人質問―
弁護人「刺青を入れるぞって、言われましたか?」
被告人「入れられる理由はわかりませんが、これを彫れれば暴力だけは避けられる。・・・・。と、思いました」
弁護人「刺青を彫れられて、まともな結婚は出来ないと考えたりしませんでしたか?」
被告人「その前に、自殺未遂した時、その様な事は、もう考えられない事として・・・・。だった様に思います」
弁護人「貴女が入れ墨を彫れられた時、松永には奥さんと子供さん達いましたよね。貴女を遊ぶ女にしようとしたんですかね」

 この日の公判は、他に、松永被告が経営していた会社内での暴力行為等の質疑応答も行われた。

 終始淡々と答える緒方被告だったが、話をする姿からは、元々は、優しい女性だったという印象がうかがえた。
 閉廷後、緒方被告が退廷したあとも、松永被告は、椅子に腰かけたまま弁護人としばらくの間、話をしていた。弁護人に、愛想よく何度も頭を下げる姿を、傍聴人の多くが最後まで見つめていた。

事件概要  松永被告は福岡県北九州市において、財産を奪うため、被害者を精神的支配下に置く手段として暴力を用いた結果、緒方被告や被害者を使って以下の犯罪を犯したとされる。
1:1996年2月26日、知人男性を暴行の末、死亡させる。
2:1997年12月21日、緒方被告の父を殺害。
3:1998年1月20日、緒方被告の母を殺害。
4:1998年2月10日、緒方被告の妹を殺害。
5:1998年4月13日、緒方被告の妹の夫を殺害。
6:1998年5月17日、緒方被告の甥を殺害。
6:1998年6月7日、緒方被告の姪を殺害。
 2002年3月7日、第一事件の被害者が逃げて保護されたことにより事件発覚し、両被告が逮捕される。
報告者 福太郎さん


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