裁判所・部 福岡地方裁判所・第四刑事部(合議係)
事件番号 平成20年(わ)第21号
事件名 保護責任者遺棄致死
被告名
担当判事 谷敏行(裁判長)杉原崇夫(右陪席)池田幸司(左陪席)
日付 2008.7.15 内容 被告人質問等

 生後約1カ月の長女を餓死させたとして、保護責任者遺棄致死罪に問われた当時19歳の夫婦のうち、妻の審理が本日あった。
 被告人は、色白で痩せた小柄な女性。黒いシャツとズボン姿で入廷。肩下くらいの黒髪に眼鏡を掛けており、地味でおとなしい印象だった。
 先ず、被告人の母親が情状証人として証言席に座った。

−弁護人による証人尋問−
弁護人「Bさんが神戸に行って、A君と同棲される辺りの話を」
証人「(平成18年)3月に子供部屋に行ったら置手紙があってそれで家出した事が分かって、バレンタインデーの送り状を見て、ここに居るんじゃないかと思って主人と私と主人の兄さんで神戸に行きました」(神戸は父と二人暮らしのAの実家)
弁護人「Bさんと会って、帰るよう説得したんですね?」
証人「就職も決まってるし、免許もあと一週間で取れる状態だったもんで、とにかく帰って来るようにと」
弁護人「その前の2月頃、A君が泊まりに来たことがあったんですね。挨拶とかは?」
証人「全然無かったです。隠れてるというか」
弁護人「A君とは会ったんですか?」
証人「スーパーで遠くから見たという感じで、部屋からは全然出て来ないという状態でした」
弁護人「御主人はA君の事どう思ってるんですか?」
証人「ちらっと見た時、女の子みたいな感じで」
弁護人「それでは印象はあまり良くないのね?」
証人「はい」
弁護人「二人を引き離そうと努力をしたのに出来なかったのは?」
証人「無理に連れ帰っても、違う場所に行かれて居場所が分からなくなるのが怖かったです。神戸ならまだ居場所が分かってるから」
弁護人「生活費の援助もずっとしてたんですね?」
証人「はい」
 平成19年10月25日にBが病院に緊急搬送された後、Aから電話があり初めて妊娠していた事を知る。
弁護人「26日には、病院側から『Bさんの所に来て下さい』と連絡があったんですね?」
証人「私は風邪を引いてたので、すぐに行ってあげる事が出来ませんでした」
弁護人「行きそびれたままで、11月22日になって博多署から『aちゃんが亡くなった』と連絡を受け、それで直ぐに行ってBさんとA君の部屋に入ったんですね?」
証人「家具も電化製品も無かったです。照明器具も電気スタンドだけで、洗濯は出来ないんじゃないかという感じでした。布団も無かったです」
弁護人「貴女としては、どうしてこんな事になったのかという思いだったんですね」
証人「私が行ってあげられなかったからこうなったんだと思って、悲しくて仕方ありませんでした。頭からaちゃんの顔が離れないです」
弁護人「aちゃんは福岡で火葬したんですね。遺骨は?」
証人「大阪のA君のお母さんの所にあります。大阪の方が葬儀が安いからと言われて持って行ったんです」
弁護人「大阪では葬儀をしたんですか?」
証人「まだしてないです。8月のお盆までにする予定です。A君のお母さんとしては、二人が出所してから一緒にという考えだった様で。それでBがA君のお母さんに葬儀をして欲しいと手紙を出したので、してくれる事になりました」
弁護人「貴女は、Bさんに対しては今後どうしようと思ってますか?」
証人「子供が亡くなってショックだったと思うし、暴力を振るわれてたという事で、もしかしたらマインドコントロールされてるんじゃないかと想像してしまって、専門的なカウンセリングを受けさせた方がいいんじゃないかと思ってます。それとaちゃんの供養をちゃんとしてあげる事。それときちんと離婚を。どうしてこんな事になったか、家族全員で時間を掛けて話し合いもしたいと思います。それで落ち着いてから仕事をさせたいと思います」
弁護人「マインドコントロールについて思う根拠というのは?」
証人「(平成18年)9月に会いに行った時、A君が『だいぶ僕の言う事を聞くようになった』って言ったんです。その時は意味が分からなかったんですが、面会の時に暴力を振るわれてたという話を聞いて、もしかしたらと思いました」

−検察官による証人尋問−
検察官「娘さんがして来た事を振り返って、どこに問題があったとお考えですか?」
証人「相談をして来なかったのと、自分から行動を起こそうとしなかった事、言い成りになってたというのもダメだと思います」
検察官「娘さんがA君の言い成りになってたから、今回の件が起きたと考えてますか?」
証人「やはり自分で出来る事はやらないといけないし、A君だけの事じゃないと思います」
検察官「平成18年7月に、貴女方夫婦やお兄さん夫婦と一緒に神戸に行ったという事ですが、それまでに行った事は?」
証人「3月に行きました」
検察官「その時娘さんは?」
証人「あまり喋らなかったんですけど、泣いてました」
検察官「自分はここに居たいんだと言ってませんでしたか?」
証人「ただ泣くだけで、言ってなかったと思います」
検察官「平成18年5月は、どこで会ったんですか?」
証人「A君のお母さんの所に居たんで、大阪だったと思います。大阪だったら仕事
がいくらでもあるから引っ越したと聞きました」
検察官「大阪には、連れて帰る目的で行ってるんでしょ?」
証人「その時は、無理やり連れて帰ってもという感じもあって、ちゃんと仕事をするように言って…」
検察官「不安定な生活をしてるのに、なぜ無理矢理にでも連れ帰らなかったんですか?」
証人「無理矢理連れて帰っても、また出て行くという思いが…」
検察官「それは逆に言うと、A君と居たいという意思が強かったという事じゃないんですか?」
証人「そうなります」
検察官「暴力を振るわれてるからこうして欲しいと頼まれた事はありますか?A君と一緒に居たいという意思を強く持ってたんですよね」
証人「傍に寄り添ってるという感じで」
検察官「貴女は育児に関する本を買って送ったそうですが、中にはどんな事が書いてありましたか?」
証人「0歳から3歳位までの事が色々と書いてあったと思います」
検察官「お母さんの方に子供の育て方についての相談は、一回も無かった訳ですね?」
証人「はい」
検察官「出産後に、お母さんが福岡に行こうとしたのは11月に入ってからという事ですが、お父さんは何故行かれなかったんですか?」
証人「私もまだ行ってない…」
検察官「でも、子供が産まれてるんですよね。不安定な生活をしてる事は十分解ってるんですよね。その様な状態で、お母さんは風邪引いてるとしても、お父さんが行かれなかった理由は何ですか?」
証人「それはちょっと考えてなかったです…行けば良かったです」
検察官「子供が産まれたと聞いて、貴女方はどんな気持ちで生活してたんでしょうか?」
証人「行かないといけないと言ってたんですけど、来るのを拒否されるし、行ってまた居留守使われてもいけないしという感じで…何か口実を作らないと行けないという感じでした」
検察官「来なくていいって話は誰が貴女方に伝えたんですか?」
証人「A君です」
検察官「娘さんと直接、行くいかないの話をした事は無いんですか?」
証人「無いです」
検察官「なぜ直接話をしなかったんですか?」
証人「電話も1分程しか出来ない状態で、直ぐ切らないといけない感じで」
検察官「今後の生活ですが、現時点で何か決まってる事はあるんですか?」
証人「カウンセリングを受けさせる事と、ちゃんと別れさせるというのは決まってます。そして落ち着いてから仕事をさせる事は決まってます」

−裁判官による証人尋問−
裁判官「連れ戻しに行った時に、Aさんが暴れるという行動があったようですが、被告人とだけ話し合いをしようとは思いませんでしたか?」
証人「A君とずっと一緒で離れる事が無かったんです。二人っきりで話すという事が出来なかったです」
裁判官「携帯を持っていたなら直接話す事は?」
証人「メールだけで電話には出ないという感じで、A君と共有して使ってたみたいです」
裁判官「神戸に行った時、Aさんから暴力を受けていると思った理由は?」
証人「眼鏡の掛ける部分が完全に無いのを見て…感情が無いというか表情も全く無かったんで…それからA君が暴力的だったもんで」
裁判長「被告人が家出をした後、Aさんと生活してるのが分かって、お母さんとしては2人の生活は無理だと思ってましたか?」
証人「はい」
裁判長「その事を直接、被告人に伝えましたか?」
証人「仕事をとにかくする様に、皆に迷惑掛けないようにと」
裁判長「要するに一緒に生活して行くのはまだ早すぎるとか、今の状態では難しいんじゃないかという話は?」
証人「しなかったと思います」
裁判長「被告人自身は、随分無茶な事してるという意識は全く無かったんでしょうか?」
証人「ちょっと分かりません」
裁判長「結果としてこういう事が起こってしまったんだけど、被告人はある意味自分で選んだ道でしょ、もっと常識というか見識があれば別の道を選べたんじゃなかったかと思われるんですけど、お母さんとしてはどう考えますか?」
証人「一途というか…何とも」
裁判長「一旦その様に思ったら突っ走ってしまうというか、今回インターネットで知り合って一緒に生活する事を、高校出てすぐ始めたという状況ですけど、それはお母さんから見て、被告人の性格とかが関係してるってお考えですか?」
証人「はい」
 被告人は、内向的な性格から対人関係が苦手で、家庭内でもおとなしい少女だったらしい。母親への証人尋問の間、終始うつむいたままで、家族や死亡した娘の話の時にはハンカチで涙をぬぐっていた。
 証人尋問が終わり、被告人が証言席に座った。

−弁護人による被告人質問−
弁護人「貴女はいつも声が小さくて聞こえないから、出来るだけ大きな声で話をしてください」
被告人「はい」
 質問の合間にも「もう少し大きな声で…」と言われていたが、時折涙声で話す被告人の声は、最後まで小声で聞き取れないことが多かった。
弁護人「破水をした時、あれが破水だったという事は分からなかったんですね?」
被告人「気付きませんでした」
弁護人「初乳が出たことは分かりました?」
被告人「母乳は白いものだと思い込んでいて、黄色がかっていたので飲ませてはいけないと思っていました」
弁護人「その黄色い初乳には、赤ちゃんの免疫に必要なものが含まれていて、むしろ飲ませなければいけない事は?」
被告人「知らなかったです」
弁護人「粉ミルクは、さましたお湯でなく水で溶いてたのは何故?」
被告人「彼が作ってるのを見て…」
弁護人「A君がやってるのが正しいと思って真似したという事ですか?」
被告人「はい」
弁護人「飲み残したミルクは捨てて、新しく作り直す事は?」
被告人「知らなかったです」
弁護人「貴女方が買ったミルクは、離乳食の時に与えるミルクで、9ケ月を過ぎてから3歳までの間に与える事が缶に書いてるんですが」
被告人「気付きませんでした」
弁護人「0ケ月の赤ちゃん用のミルクは別にあるんですが、見て買ったワケではないんですね?」
被告人「どれも同じなのかなと思って…」
弁護人「病院を退院する時に、この子は低体温児だから温めなければダメですよと言われませんでした?」
被告人「家に帰った時は、ミルクを飲まないってことが頭に入ってて、低体温という事は覚えてませんでした」
弁護人「妊娠中、病院に掛からなかったのは何故ですか?」
被告人「経済的な問題も有りましたけど…両親に居所が分かってしまうんじゃないかと」
弁護人「A君とは携帯電話のサイトで知り合って、最初は携帯でやり取りしてたけど、初めて会った時に結婚を申し込まれた」
被告人「はい」
弁護人「それで受けようと思ったんですね。それまでの間に、携帯でやり取りしてる内に気心が知れる関係に成ったという事ですか?」
被告人「はい」
弁護人「卒業式が終わった後、貴女は就職の内定を貰っていたのに、家出同然に実家を出たんですね?どういう事を書いて家を出たんですか?」
被告人「やりたい事があるから、探さないで下さいと」
弁護人「就職が決まってるのに、それを振り切って駆け落ちみたいな大胆な事、貴女が出来たことが不思議で堪らないんだけど」
被告人「ちょっと変わった仕事を一緒にしないかと言われて、私も彼の事が好きでしたし、彼と一緒にそのマジックの仕事をしようと…」
弁護人「『夫の事が好きで好きでたまらないんです』と書いた部分があったんですけど、いつ頃位がそうであったんですか?」
被告人「同棲を始めて半年位…」
弁護人「半年位で、そういう状態で無くなったのはどうして?」
被告人「彼から暴力を振るわれるようになって、その事が苦痛になったからです」
弁護人「どんな暴力を受けたんですか?」
被告人「顔面を殴られるとか」
弁護人「時間はどのくらい続くんですか?」
被告人「彼が疲れるまで、2,3時間とか…」
弁護人「月の内、何回とか?」
被告人「一週間に一回は必ず…」
弁護人「どういう理由で暴力を振るんですか?」
被告人「岡山(被告人の実家)に帰りたいんだろうって、私が違うと言っても、絶対そうだと決め込んでしまって…」
弁護人「他には?」
被告人「私が彼の事を嫌っていると思い込んで、本当は嫌いだから一緒に居たくないんだろうって…」
弁護人「A君が何かの病気だと聞いた事はありますか?」
被告人「本人が言うには、鬱病だとか」
弁護人「治療を受けていると聞いた事ありますか?」
被告人「神戸に居た時、何度か精神科に行った事はあります」
弁護人「高校生の頃、貴女にはリストカットをした友達がいましたね。貴女が支えてくれたという事でしたが、そういう精神状態にある人を貴女が支えるという事と関係がある様な気がするんですが」
被告人「分からないです」
弁護人「普通だったらこんな暴力振るう人嫌いだとなるはずですが、まだ好きだという気持ちがあったんですか?」
被告人「彼と離れようと思った事があったんですけど、彼から『両親はもう帰って来なくていいと言ってる』って話があって、家にはもう帰れないなと思って…」
弁護人「A君が暴力を振るう前は、いわゆるキレるという状態?」
被告人「目つきが変わってきて、落ち着きが無くなってきて、声が高くなったりとか…」
弁護人「『死にたい』と言ってキレたり暴力になる事は?」
被告人「自殺願望があるみたいで、そんな事はしてはいけないって止めたりしたら、死なせてくれないからと言って暴力を振るわれる事がありました」
弁護人「私が面会した時、眼鏡が歪んでましたね」
被告人「鑑別所で職員の方に直していただきました」
弁護人「神戸や大阪に、お父さんやお母さんが連れ戻しに来た時、なぜ一緒に帰らなかったんですか?」
被告人「彼から、もう帰って来るなっていう風に聴かされてた事もあって…」
弁護人「何回かにわたって、出産するか中絶するかの口論しましたか?」
被告人「はい、何回もしました」
弁護人「その頃、A君からはどんな暴力を受けましたか?」
被告人「お腹を叩かれたり、足とか…肩を殴られたりとか…」
弁護人「貴女自身もハンマーで腹を叩いたのはなぜ?」
被告人「堕ろせとかそういう事を言われて…私自身も否定されて…何が何だか分からない様になってしまって…」
弁護人「赤ちゃんが出来た事をお母さんに相談しなかったのはなぜ?」
被告人「彼と離されると思ったり、堕ろせと言われる可能性も…」
弁護人「1月頃に産まれると思ってたのが、10月25日に緊急入院で出産する事になったんですね。その日に退院するという話になったのは?」
被告人「彼が、病院の対応が気に入らないと言って…病院の空気が悪いとか…」
弁護人「退院後、他の病院を探しましたか?」
被告人「8件くらい電話を掛けました」
弁護人「何か言われましたか?」
被告人「ウチの病院で出産した子供じゃないから診られないというのと、一ヶ月経たないと見られないと…」
弁護人「10月26日には、包丁を突き付けられ振り回された事があるんですか?」
被告人「出産の時に立ち会えなかった事がショックだったみたいで…」
弁護人「暴力も加えられたんですか?」
被告人「その時はグーで顔とか身体とか何回も殴られました」
弁護人「段ボール箱(ファンヒーターの空き箱)に、aちゃんを入れてた事があるんでしょ?」
被告人「aが夜泣きをして、彼が眠れないと言い出して…捨てろとかいう話になって、そんな事は出来ないと言うと…」
弁護人「何に使っていた箱ですか?」
被告人「猫のトイレです」
弁護人「実際に猫のトイレとして使ったんですか?」
被告人「2,3日使っていたことがあります」
弁護人「その箱に入れろと言われて、貴女は素直に従ったんですか?」
被告人「何回もイヤと言ったんですけど…殴られたりして…」
弁護人「貴女の調書の中に『こんな事なら堕胎しておけばよかった』と記載があったんですけど」
被告人「こんな事するくらいだったら堕ろせと言われたときに堕ろしておけばと…」
弁護人「夜泣きをした時は、どんな暴力受けたんですか?」
被告人「夜泣きをしたa所に行ったら、私の髪を掴んで床に投げ付けられるような形で…」
 この頃、被告人は夫から『夜にミルクは与えなくていい、気になって眠れない』と言われたことで夜にミルクを与えにいかなくなる。
弁護人「それで、aちゃんが段々痩せてくるって事は?」
被告人「痩せてきてました」
弁護人「お昼はミルクは飲んでましたか?」
被告人「最初の頃は20ccとか…飲む量が段々少なくなりました」
弁護人「段ボール箱に入れてる頃、沐浴したのはいつ頃だったか覚えてますか?」
被告人「11月10日位…彼にaをお風呂に入れてくれと言われて」
弁護人「その頃のaちゃんの体の状態はどうでしたか?」
被告人「その時は、そんなに痩せてるって風には思わなかったです。最初の頃と変わらなかったです」
弁護人「赤ちゃんは段々体重が増えていかないといけないけど、そんな状態ではなかったんでしょ?顔が小さくなってるなあと思わなかったですか?」
被告人「思いました。最初の頃より少し顔が細くなってる感じ…」
弁護人「その状態は痩せていってるって思わなかった?」
被告人「大人に近づいていってるのかなって」
弁護人「大人顔に近付いていってるのかなって思ったという事?」
被告人「はい」
弁護人「その後、aちゃんがミイラになった夢を見たんですか?」
被告人「15日位に、ミイラみたいになって死んでいる夢を見ました」
弁護人「朝、aちゃんを見ましたか?」
被告人「最初の頃に比べて、痩せていました。…このままの状態では死んでしまうから病院に連れて行くと言いました」
弁護人「Aさんは何と言いましたか」
被告人「分かったとだけ言いました」
弁護人「Aさんが病院を探してなければ、貴女自身が病院を探すとか考えられませんでした?」
被告人「任せていようって感じで…自分で探す事はしませんでした」
弁護人「貴女の調書の中では『病院に連れて行ったり、段ボールから出してあげる勇気も湧きませんでした』と記載があったんですけど」
被告人「私の中では、彼の事が怖いという事ばかりがあって…」
弁護人「その後、A君はデジタルカメラを買って、外出して写真を撮る時、貴女も一緒に付いて行ってるでしょ?」
被告人「aの傍に居てあげたいという気持ちがあったんですけど、仕方なく…」
弁護人「その時、A君がキレるとか暴力って事は?」
被告人「私が、外出しないって言った時は殴ってきました」
弁護人「亡くなる数日前、A君がaちゃんを段ボール箱から出して来た事があったんでしょ?」
被告人「『死んだら困るから可愛がろうかな』って言ってました」
弁護人「それを聞いてどう思いました?」
被告人「そんな事言うんだったら、最初から自分の娘なんだから可愛がって欲しかった…」
弁護人「11月21日の夜、aちゃんは亡くなってしまったんだけど。21日に写真を撮られてるでしょ?この時ミルクは与えたんですか?」
被告人「50cc飲んだ時と全然飲まなかった時がありました」
弁護人「亡くなった21日に50cc飲んだの?」
被告人「はい」
弁護人「(沐浴は全部で2,3回あったが)お風呂に入れてあげない時、体を拭いてあげる事は?」
被告人「ウェットティシュがあったので、それで拭いてました」
弁護人「赤ちゃんの肌を清潔にするために毎日でも沐浴させるのが当たり前なんだけどね?」
被告人「…aの臭いが付いてお風呂に入れなくなるって言われて…」
弁護人「オムツは一日何回位替えてましたか?」
被告人「一日に一回は替えていました」
弁護人「一日に複数回替える事は無かったんですか?」
被告人「夜にミルクを与えに行かなくなって、その間にオムツを見る事も無くなって…」
弁護人「オムツを替えるのにA君から文句などを言われた事は?」
被告人「生活してる部屋でオムツを替えようとしたら『臭いから外でしろ』と…その後は毎回玄関で替えてました」
弁護人「aちゃんが亡くなって、死顔を見たんでしょ?」
被告人「ショックで…辛かったです…段ボールから出してあげられなかった…病院にも連れて行ってあげられなくて本当にごめんねと…」
弁護人「もっと愛情を持って育てられなかったかなぁって気がするんですけどね?」
被告人「彼から暴力を受けようが、第一にaを助けてあげていれば良かったって思います」
弁護人「今、aちゃんに対してどう思ってますか?」
被告人「申し訳なく…ちゃんと育ててあげられなかった…」
弁護人「aちゃんに宛てた手紙を書いて私に送ったでしょ。どういう気持ちを表してますか?」
被告人「aに謝罪の気持ちを込めて…」
その手紙を8分近くにわたり涙声で読み上げる。その間、傍聴席にいる被告人の母親も啜り泣いていた。最後に、今後のAとの関係について訊かれ「ちゃんと離婚します」と答えた。

−検察官による被告人質問−
検察官「先程、産まれた直後の10月末と11月16日,17日の顔写真見ましたね。顔がどんな風に変わっているか言葉で説明出来ますか?」
被告人「最初の頃と比べたら、丸かった顔が…」
検察官「頬がコケるって言葉が当てはまるような形ですか?」
被告人「はい」
検察官「お医者さんから要注意だと言われておきながら、真逆の事をやってしまった一番の理由は?」
被告人「彼から暴力…自分がその通り従ってしまったことです」
検察官「お母さんに助けを求めなかったのは、A君から実家に帰って来なくていいって伝えられてたからとの事ですが、お母さんと直接電話で話をすることは無かったんですか?」
被告人「あったと思うんですけど、必ず横で彼が電話を聴いているという状態でした」
検察官「そもそも、お母さんは貴女を連れ戻しに来たりしてますよねぇ?」
被告人「神戸に居る時、彼からずっと言い聞かされてたので、そうなんだって思い込んでました」
検察官「暴力によって育児を止められたって言ってますが、貴女が止められた事ってなんですか?もう一回言ってもらえますか」
被告人「夜にミルクを与える事が出来なくなり、お風呂(沐浴)に自由に入れられなくなって、外出の時にaを置いて行く事になったこと」
検察官「貴女は、なぜ赤ちゃんに必要な授乳量を調べなかったんですか?」
被告人「泣いている時に、飲みたいだけ飲ませたらいいのかなって考えてました」
検察官「貴女達が買ったミルクの残量から、どれだけ使ったかみると通常の用量で約21回分しか使われてないんですけど。貴女の中では何回位ミルクを作った記憶なんですか?」
被告人「何回かは…それは覚えていません」
検察官「作り置きして余ったのを飲ませるって事もしてたんでしょ?」
被告人「してました」
検察官「(母親が送った育児本を読む時間が無かった理由として)それでミルクの授乳が忙しかったって言えるんですかね?」
被告人「自分の中では…」
検察官「貴女が十分な育児をしなかった理由って何ですか?」
被告人「彼の目があって、自分の思う様には」
検察官「貴女が育児をしようとすれば全部止めるんですか?全部暴力を振るうんですか?」
被告人「全部という訳では無いですけど、…しようとすると私の顔を平手で…」
検察官「貴女は日中、aちゃんを段ボールから出したりしなかったんですか?」
被告人「しませんでした」
検察官「夜、授乳を禁止されたのは分かるんだけど、なぜ日中も入れっぱなしなんですか?」
被告人「赤ちゃん独特の臭いがするからって…」
検察官「出すなって言われてた訳じゃないんでしょ?」
被告人「言われてないです」
検察官「貴女にとってaちゃんとA君どっちが大事だったんですか?」
被告人「自分はやっぱりaの方が…」
検察官「貴女は当時19歳で、大人に近い年でしたね。本当にaちゃんが大事なら岡山に抱えて帰ったり、警察に助けを求めるなり出来たんじゃないんですか?」
被告人「…あの時…どうしたらいいか分からなく…」
検察官「なぜA君との関係を絶たなかったんですか?」
被告人「私は、親子三人でやって行けたらっていう風に思っていて」
検察官「暴力を振るわれていながらもA君と一緒に居ようと思った理由は何なんですか?」
被告人「aに父親が居ないと…家には帰れないし…帰って来るなって言われてるなら…」
検察官「aちゃんが亡くなってから葬式が実際に行われたかどうか最近まで知らなかったんですよね。なぜ知ろうとしなかったんですか?」
被告人「…もう、終わっているものだと思っていて…」
検察官「どこに遺骨が安置されたのかとか気にならなかったですか?」
被告人「実家の方にあるものだと思っていて」
検察官「今回の事件を通して、自分について振り返って何か学ばなかったですか?」
被告人「自分の考えの甘さ…何でも人に合わせてしまって…」
検察官「貴女の性格で、なかなか自分の意見を言いにくいタイプだって聞こえるんだけど、もっと頼るべき人に頼って、相談していくって気持ちになってますか?」
被告人「…周りの家族とか頼れる人に相談していきたいと思います」

−裁判官による被告人質問−
裁判官「この事件こういう結果になった事について、貴女とAさんとどちらの責任が重いと思っていますか?」
被告人「自分の方が重いと思っています」
裁判官「どうしてですか?」
被告人「いくら彼から言われたからって、守ってあげられるのは自分だったと…あの時aを病院に連れて行ってあげればよかったと…」
裁判長「岡山の実家に帰らなかった理由として、A君から両親が帰って来るなと言ってるという風に聴いたと言ってましたね。直接お母さん達に訊く事が怖くて出来なかったと答えてますが、怖かったと言うのは何が怖かったんですか?」
被告人「本当に、彼の言ってる通りであったらと…」
裁判長「お母さん達に訊いてるのをA君が知ったら怒るから怖かったという訳では無いんですね?」
被告人「それは無いです」

 被告人質問が終わり、引き続き論告と弁論があり、検察側からは懲役4年が求刑された。
 午前十時に始まった公判は、昼休みを挟んで午後三時まで行われた。傍聴席には、記者の他に福祉関係者らしき人達も居て、熱心にメモを取る姿も見られた。

※後日、福岡地裁は被告人に懲役2年の判決(未決勾留日数中120日算入)を下した。
事件概要  被告人夫と共に、福岡県福岡市の自宅に於いて、生後1月未満の長女に十分に授乳をしなかったり長時間放置した結果、2007年11月21日、低栄養による脱水症または飢餓により死亡させたとされる。
報告者 福太郎さん


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