裁判所・部 神戸地方裁判所尼崎支部・合議係
事件番号 平成17年(わ)第532号
事件名 傷害致死
被告名 A、B、C
担当判事 渡邊壮(裁判長)高松晃司(右陪席)平井直也(左陪席)
日付 2005.11.9 内容 初公判

 11月9日午後3時から、傷害致死の罪に問われたA・B・Cの少年3被告の初公判が神戸地裁尼崎支部(渡邊壮裁判長)であった。
 3被告はいずれも高校の制服のようなカッターシャツに紺のベストを着用していた。
 A被告はオムスビ顔の大人しそうに見える少年で、ホッチキスの芯のような眉毛に細い目、鼻の根元にホクロがあった。
 B被告は長髪で細い目つき、痩せ型で背が高い。
 C被告はスポーツ刈りで眉が濃く、目つきが鋭い少年で、高校球児のような容貌だった。
 検察逆送事件ではあるが少年事件だったので、開廷表では名前は伏せられ、顔が傍聴席から見られないよう、傍聴人が入廷する前に後ろ向きに座らされていた。
 最初法廷の前に座っていて会釈を交わした初老の女性が、被害者のaの母だった。他に中年男性と年を取った女性と来ていた。
 少年の家族は開廷される直前に続々と入廷してきて、傍聴席はいっぱいになった。人定質問も少年保護の観点から人定カードを用いて行われた。

−検察官の起訴状朗読−
 3被告人は共謀の上、7月21日の午前3時20分ごろ、兵庫県尼崎市東園田町の路上で、トラブルになったaの顔面を手拳で殴打したり、踏みつけにするなどして外傷性クモ膜下出血により死亡させたものである。
 罪名傷害致死。

 裁判長から黙秘権の説明を受け、今検察官が読み上げた公訴事実に間違いはあるかと最初に尋ねられたA被告は、弁護人から書面を手渡され、それを朗読した。
 内容は、被害者が亡くなられたことは反省・後悔しているが、自分もaさんから攻撃されるなかで、共謀の上死亡させたという点は違うというもの。
 意見を求められた弁護人はAの行為は正当防衛に当たり、Bの行為も防衛行為に当たるが、量的意味で過剰防衛に当たるかもしれない。そのBの過剰部分についてAには責任がない。Cとの共謀についても、Cが最後に足蹴りにした行為を予想していなかったから、共謀は成立しない。だが被害者が亡くなられたことに対し、可能な限りに慰謝の措置は講じていくが、刑事責任においては争うという主旨のことを述べた。

 次に尋ねられたのはB被告。

B「僕はA君が被害者に殴られるのを見て、それを止めようとしました。被害者に喉の部分を殴られたので、左顎を殴りました。その後、倒れた被害者の頭や顔を殴りました。C君が被害者の頭部を蹴ったり、踏みつける行為をするのは予想できませんでした。犯行の時間や場所は間違いないと思います」
弁護人「事実関係は被告人が申し上げたとおりですが、3被告人の間の傷害の軽重は不明です。Cとの間に共謀は成立しません。Cが頭部を足蹴にするのは予想できなかった。被害者の肩を3回殴ったり蹴ったりしたのは認めるが、それは被害者から殴られたためだった。法律上では過剰防衛が成立する。被告人は捜査機関に事件が発覚する前に警察に行っており、自首が成立する。本件は犯行の状況や非行歴を考えると、少年法55条に基づき家裁尼崎支部に移送されるべき事案で、保護処分を求める」

 最後に尋ねられたのはC被告。

C「起訴状には共謀の上の犯行と書かれているが、僕は遅れてきたので共謀はしてないです。倒れた被害者を1回蹴って踏みつけたのは間違いありません。本当に申し訳ありません。遺族の方にはこの場をお借りしてお詫び申し上げます」
弁護人「Cは現場に遅れて到着したので、共謀した事実はない。他2名の被害者に対する有形力行使は終わっていた段階だった。見知らぬ男に喧嘩を売られ、反撃として1回だけ自転車に乗って蹴ったのは事実だが、被害者はその時点で致命傷を負っており、死亡との因果関係がないのでCの行為は傷害罪に該当する」

−検察官の冒頭陳述−
 被告人らの身上経歴についてだが、A被告人は尼崎市内で出生し、事件当時高校に在学していた。婚姻歴はなく、家族と同居していた。前科・前歴はない。
 B被告人も尼崎市内で出生し、事件当時高校に在学していた。婚姻歴はなく、家族と同居していた。前科・前歴はない。
 C被告人は尼崎市内で出生し、大阪府内の高校を中退した後、居酒屋でアルバイトをしていた。両親と祖母と同居し、非行歴が1回ある。
 被害者は赤穂市で出生し、大阪府内の高校を中退後、トラックの運転手として稼動していた。平成7年ごろ現在の妻と出会い、平成13年には子供を儲けて、同居していた。
 本件の犯行状況であるが、被告人3名は小中学校時代からの友人で、平成17年7月21日午前1時30分ごろ、尼崎市内の居酒屋で飲酒したあとカラオケ店に行き、そこでも飲酒していた。
 午前3時20分ごろ、カラオケ店を出てBとAは止めてあった自転車に跨った。Cは立小便をしていたので少し遅れて自転車のところに行った。
 そして自転車で走行中、酩酊中の女性を肩で支えていたaを見て、Aは『ようやるわ』とつぶやいた。それを聞いた被害者がAに『何見とんじゃ!』と怒鳴った。Aは『は?』と言って挑発的な態度を取った。被害者はAの自転車に近づき、それを足蹴りした。怒ったAと被害者が対峙し、お互い胸倉を掴んで揉み合いになった。
 Aは手のひらの付け根の固い部分で被害者を1回殴り、一方被害者もAの顔面を殴打しようとしたが掠っただけだった。Aは手拳で3回被害者を殴打した、
 またBもAに加勢しようと思って割って入り、被害者の腹部を足蹴りした。被害者とBは揉み合いになって、Aは弾き飛ばされ、推移を見守っていた。
 小競り合いをしてBが被害者を右のコブシで殴打したところ、被害者は崩れて転倒した。被害者を跨ぐ格好で頭部を一回殴打した。
 自転車に乗って現場に向かったCは、被害者と酔っ払って歩いていた女性と擦れ違った。その女性は暴行を目撃していた。CはAのそばに行って何があったのか尋ねて、Aは「喧嘩になった」と言った。CはBとAに加勢しようと被害者のほうに近づき、Bは横臥したままの被害者を足蹴にしていた。
 ここでY1という女性がカラオケ店に入っていくのを見て、Aが「女が人を呼びよった。逃げよう」と言い、その言葉を受け、3人は逃走することにした。Cはその際、自転車に乗りながら被害者の側頭部を蹴った。
 その後、カラオケ店の店員が泥酔状態のY1を発見して事件が発覚した。Bは友人から被害者が死亡していることを聞き、父にそれを打ち明け、自首した。
 他の2名もそれぞれ親とともに自首した。
 以上の事実を証明するため、証拠等関係カード記載の関係各証拠の取調べを請求します。
 甲23,14,20,33号証は全ての被告人の関係で請求するという。

−A被告弁護人の冒頭陳述−
 AとBの弁護人の意見は以下の通りである。
 aとY1は白木屋で長時間飲酒し、相互に抱きあうような形でふらついていた。
 被告人らは焼き鳥屋で飲酒したあと、カラオケ店に行って出てきた。
 Cは小用のため、遅れていた。
 自転車に乗った被告人らは2人の左側を走っていたが、Bは「どんなアベックか見てやろう」とあまり視線を合わさないように覗いて通り抜けた。
 Aについてだが、Aにはからかう目的で「ええ年やのに、ようやるわ」と言った記憶がない。
 被害者に「何見とんじゃ!」と怒鳴られたとき、被害者とAの距離は3.9メートル、被害者とBの距離は4.5メートルあった。
 怒鳴られたAが「は?」と言い返したことが犯行のきっかけとなり、被害者に自転車の反射板が割れるほど強固に捕まった。
 被害者とAが殴りあいになり、それを見たBは「Aがやられてしまう。とめなければならない」と思い、一方の左肩を掴んで離そうとすると、被害者はBに向かってきて、「オラーッ!」と大声を上げて殴りかかってきた。Aにはそのときの確かな記憶がない。ただAにはBと被害者を引き離そうとか、これ以上喧嘩するのをやめさせようとする気はなく、推移を見ていた。
 Bが被害者の右あごを殴ると、被害者は路面に倒れた。そのときCが現場に到着した。Bは被害者の顔面を一回蹴ったが、Aは女の人が誰かを呼びに行っているのを見て、「もし仲間を呼ばれたら大変なことになる」と逃走することにした。
 Cから「こいつ誰?」と聞かれたが、誰も答えなかった。
 それからCは被害者の頭部を蹴った。Bは自転車に乗っているCが被害者を踏みつけることはその時点では予想していない。Aはその行為自体を見ていない。
 その後それぞれの親に付き添われて自首した。

−B被告弁護人の冒頭陳述−
 本件は改正少年法に基づき、傷害致死は原則逆送ということで検察官送致され、裁判を受けているのであるが、決して厳罰化ということではない。つまり家裁送致で保護処分選択も可能である。そういった裁判例も過去にたくさんあり、平成17年では傷害致死10人、強盗1人が保護処分になっている。
 結論として本件は保護処分されるべき事実を立証していくということで意見書も提出する。

 ここで請求した証拠のうち、双方が同意した部分は採用すると裁判長が述べる。

 甲号証では以下のものが挙げられた。
・家裁の審判結果
・被害者を見つけた第一発見者であるカラオケ店員の供述
・カラオケ店員の立会いによる実況検分結果
・Cによる警察官を案内した状況
・被害者の蹴った自転車の傷
 なお被害者の妻の供述調書には遺族としての処罰感情が綴られており、以下朗読する。

−被害者の妻の供述−
 夫は昔から釣りが好きで、子どもができてからは子どもと遊ぶことを楽しみにしていました。キャッチボールをしたり、カブトムシを取りに行っていました。
 私の仕事と子育ての両立に気を使ってくれました。
 私も彼と同じく片親で育ち、生まれ変わっても一緒になりたいと思っていました。
 私は警察に呼ばれたとき、何がなんだか分かりませんでした。夫の姿を見るまでは信じたくないと思い、夫を見ましたが、死に顔は悲壮な表情をしていました。
 事件直前夫は帰ったほうがいいかと聞いてくれたので、帰ってくれと言えば良かったです。
 夫の顔は本当に悔しそうでした。
 子どもは小さな箱に入っている遺骨に話しかけています。
 犯人3人はとても許せません。暴言かもしれませんが夫と同じ目に遭わせてやりたいです。
 夫がいないこれから、子育ては大丈夫だろうかと経済的な面でも不安になります。
 授業参観や運動会の日に父親がいないことで、子どもにどのような影響があるのか心配しています。

 ここで次回公判の期日を決めて閉廷する。

 法廷の外で、aさんの母親が、大勢いた被告人の関係者に対して、
「誰が殺したんや!」
「どういう育て方してるんや!」
「あんたらの子どもやって酒飲んどったんでしょうが!高校生の分際で!」
「倒れてる人の頭まで蹴ることはないやないの!悔しい!」
と怒鳴っていた。被告人らの父兄は目を瞑ったまま顎を下げていた。

事件概要  3被告は、2005年7月21日、兵庫県尼崎市の路上で、男性を暴行し死亡させたとされる。
報告者 insectさん


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